ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

『なんだ、そのガイジンみたいな頭は』

山本文緒さんの「アカペラ」を読みました。

 

凪良さんが先日のトークショーで紹介されていた作品の一つです。

 

山本文緒さんとは初対面でしたが、一気に引き込まれました…。田辺聖子に続いて、早くもまた新たな天才と出会ってしまいました。

 

三作とも好きですが、やっぱり表題作が一番好きかな〜。

 

いずれも、一言では言い表すことができない情愛の関係性がテーマになっています。この言い表しにくさがいいんです。

 

では、以下は作品ごとに簡単にネタバレありで感想を。

 

 

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【アカペラ】

たまことじっちゃんの情愛。切なすぎますね…。このお話ではあんまり出てこないけども、客観情報だけで人を判断する人にはなりたくないと思いました。

たまこはきっと、頭では世間一般的な価値観も理解しているし、それがきっと正しいのだという風に思っている。じっちゃんの情愛は、たまこ自身ではなくまあこさんに向けられたものだというのも頭では分かっている。でも、頭で分かっているからといって、それを受け入れなければならない時の痛みがなくなるわけじゃないんです。それはそれとして、きちんと痛いのですよ。とても切ないです。

 

【ソリチュード】

ダメ男が何故かモテるハーレムストーリー、と言ってしまえば身も蓋もありませんが、これもアカペラとおんなじだと思いました。ありきたりだからと言って、その気持ちが嘘なわけじゃないし、軽んじていい気持ちでもないと思うのです。

それにしても、最後の締め方といい、典型的な優柔不断のダメ男感がすごいですね。

 

ネロリ

姉弟を中心とした複雑な情愛でした。「気持ち悪い」って、めちゃくちゃ主観的ですよね。いついかなる時も他人に対して使ってはいけない言葉だなと思いました。

ラストはグッと来ました。意外な関係性もそうですけど、ココアちゃんの決意の固さが。

人生がきらきらしないように、明日に期待しないように生きている彼らに、いつか、なくてはならない期待の星になるために。心を温める名前のあたしが。

『何考えててもいいけど、ちゃんとしてよ』

芦沢央さんの「汚れた手をそこで拭かない」を読みました。

 

芦沢さんは、「罪の余白」と「悪いものが、来ませんように」に続いて3作目です。

 

毎度のことですが、話の展開が気になりすぎて、すいすい読めてしまいますし、展開の意外性がすごくて好きです。

 

タイトルが秀逸です。「お金」をテーマにしているのですが、お金関係のなんらかのことで手を汚してしまった人々が、「そこ!?」という所で手を拭こうとするというお話です。

 

物語としては、私個人はどうしても共感ポイントがないというか、登場人物への感情移入が中々できないのが、少しもやっとしてしまう所です。

 

これは個人差がありますし、何より単純な面白さが突き抜けているので、誰でもスラスラとは読めると思います。

 

以下、各短編ごとにネタバレありでみていきます。

 

 

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【ただ、運が悪かっただけ】

いわゆる安楽椅子探偵ものでした。十和子の状況把握能力の高さよ。

 

【埋め合わせ】

これはいるよな〜〜ここまでではないけどちょっとしたことなら自分もやりかねない…。まぁそれは置いといて、最後のオチには爆笑しました。

 

【忘却】

これは後味最悪の一品ですね。褒め言葉です。電気料金の請求書というミスリードからの停電のオチ…。ネタバレになるから書きませんが、湊かなえさんのあの作品と似た、震えるオチでした。

 

【お蔵入り】

これは、展開的には読めたところもあったけど、やっぱり後味悪め。鳥のシーンは何かの比喩なのかな〜。あとラストのあと、どうなっていったのかが気になる。

 

ミモザ

個人的には今回の中で一番好きです。ミステリー要素はほとんどなくて、どっちかっていうとホラーだよね、これ。旦那さんの見て見ぬふりと、結局最後もお金貸してしまったことで、この後もどんどん狂っていくんだろうな〜〜というのがゾクゾクしました。

 

『いつかはそうなるやろ』のいつかはいつか?

田辺聖子さんの「ジョゼと虎と魚たち」を読みました。

 

まず、これを原作とする映画がいまやってて、暇を持て余してたので観ました。そうして、どうやら原作は短編らしいと聞いて気になり、読んだ次第です。

 

いや、こんな沁みる短編集だとは思ってなかったです…。田辺聖子さんは天才なのでしょうか?昭和の頃にこんな小説を書くなんて…。

 

大人の女性を主人公とした、恋愛にまつわるお話です。なのに主人公に自分を見つけてしまうのですが、これはどう解釈すべきなのでしょうね…。特に「うすうす知ってた」が私にとっては化け物級でした。

 

とにかく田辺聖子さんをもっと摂取しようと思いました。

 

以下で、各短編に軽く触れておきます。

 

 

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【お茶が熱くてのめません】

田辺さんってすごい人だ、と感じました。話の展開は現実味がありつつ、内面描写はどこか概念的で、それでいて置いていかれることなく進んでいきます。

あぐりは、吉岡のことをなんとかしてやりたい(喉が乾いている)と思いつつ、吉岡の話に心底呆れている(お茶が熱くて飲めない)、ということかな?

 

【うすうす知ってた】

主人公の梢が、ほぼほぼ私です、はい。老ねたコドモという表現がよく似合います。

 

今は楽しく生きてるけど、やっぱり結婚したいという思いはあって、じゃあそのために何かしてるかというとそんな大したことはしておらず、でもやっぱり次の人生はすべて「結婚」から封切りになる、そんな感じで考えている。

 

真剣に考えこんでも、どこか紐のほどけたところがあるとみえ、ゴム風船を水に沈めようとするときみたいに、心はフワフワとまた、浮き上がってしまう。

 

この終わり方も救いがなくて、今の私には刺さります。結局運命を待ってるバカなんですよね〜〜頭では分かってるんだけどなぁ。

 

【恋の棺】

この二重人格も、私をみているようでした。客観視が比較的得意なせいもあって、主観的欲求と正反対の行動も、簡単に取れてしまうのですよ。いい面もありますけどね。

 

【それだけのこと】

これも面白かったです。チキという媒介を通じてのコミュニケーション、この楽しさ・可笑しさはこの距離感でないと生まれないような。関係性に名前をつけてしまうと、ただそれだけのことになってしまう、おおげさに言えば神秘性がなくなってしまう。この気持ち、わかります。

 

【荷造りはもうすませて】

これは完全に隣の芝生が青く見える現象だと思ってます。私もそうです。

 

【いけどられて】

昔ってこういうのよくあったんでしょうかね?小説だからなのか、時代の違いによるものなのか…。

とにかく稔が理解不能すぎた。「めし」は流石に時代関係なく頭がおかしいことがわかる。

 

ジョゼと虎と魚たち

映画と全然違った…。映画を先に見たからかもしれないけど、方向性が結構違う感じで、どっちがいいとかそういう話ではないとは感じました。

幸福を死と捉えるのはすごいけど、粋な発想ですね。完全無欠な幸福の継続は、つまり人生のゴールであり、変化を望まないことであり、つまり死、ということかなぁと解釈しました。

魚の例えのくだり、結構重要な気がするけど映画ではほぼ出てこんかったですね。

 

【男たちはマフィンが嫌い】

人様に迷惑かけてまでやることは絶対ないとは思うけど、連の考えが少し分かってしまう自分が嫌でした。

積読本があることに幸せを感じるというか、まだ見ぬ世界がそこにあることで満足してしまうというか、それがあるからこそ生きていられるというか、そんな感じです。

 

【雪の降るまで】

一番官能的なような気がしました。二人とも業が深そうな…。ザ・密会って感じ。

2020年の本棚

2020年も終わりですね。今年は外に出ることが例年以上に少なく、その分、読書が多少捗りました。

 

今年はあっという間に過ぎ去ってしまったという印象がある一方、今年初めて読んだ本を確認すると「やがて海へと届く」で、あれ、これ読んだの今年か、随分遠い所まで来たな、という気持ちもあるという不思議な感覚です。

 

今年一年間で読んだ本は計31冊。読んではいますが、熱心な読書家というには程遠いレベルですね。ただ、熱心な読書家になる気はないので、今後も読みたい本を読みたいときに読みます。

 

さて今回はその31冊から、トップ10を紹介したいなと思います。

2020年に出版された本ではなく、私が2020年に読んだ本の中から、私の満足度をもとに独断と偏見でランキング化しているので、完全に自己満足です。悪しからず。ここではネタバレは一切しないようにしています。

 

今年はここに備忘録を書くようになったおかげで、内容がすぐに思い出せるようになりました。読書も一人で懐古厨がしたくてこの備忘録を始めたので、十分に役割を果たしてくれています。

 

【第10位:赤×ピンク(桜庭一樹)】

 つい数日前に読んだ本です。迷ったし、直前補正がかかっているとは思うけど、ここに置きました。人間、特に少女~女性の不安定性を見事に描いているので、そういうのが好きな方にお勧めです。「少女には向かない職業桜庭一樹)」や「少女(湊かなえ)」が類似作品かな。

 

『いまからあなたはタオルじゃなくて、ぞうきんよ』

 

 

【第9位:まだ温かい鍋を抱いておやすみ(彩瀬まる)】

彩瀬さん、今年はわりと深めで複雑なテーマを扱う作品が多かった中で、本作はそれを引き継ぎつつも、「食べる」ことのすごさがテーマになっています。すべてに真摯に取り組みには、世の中は複雑すぎる。食べものから力をもらってこれからも生きていきましょう。

 

『食べるってすごい。生きたくなっちゃう』

  

 

【第8位:巴里マカロンの謎(米澤穂信)】

小市民シリーズ待望の最新刊です。小市民シリーズ好きは読んでください。読んだことないけど、「日常の謎」が好きな方であれば、ぜひシリーズ1作目の「春期限定いちごタルト事件米澤穂信)」を読んでください。

このコンビがまだまだ平和な頃の物語を楽しめます。「伯林あげぱんの謎」は、ぜひ推理しながら読んでみてください。私は序盤から爆笑してしまいました。

 

『これこそがマカロンです』

 

 

【第7位:やがて海へと届く(彩瀬まる)】

彩瀬さんが東日本大震災で経験されたことを小説に昇華させたような、彩瀬さんの祈りの物語です。東日本大震災について想いを馳せたい方、おすすめです。

ぜひ、「暗い夜、星を数えて(彩瀬まる)」を読んでから、お読みください。

 

 

【第6位:蜜蜂と遠雷恩田陸)】

これは有名作ですね。小説でしか聴けない音楽を聴くことができます。音楽の世界に詳しくなくても、いや、詳しくないからこそ、より楽しむことができる部分が多いと思うので、万人にお勧めできます。分厚いですけど、途中から止まらなくなります。

 

 

【第5位:medium 霊媒探偵城塚翡翠相沢沙呼)】

これも有名作ですね。いわゆる「どんでん返し」ものは好きだけど、読みすぎて慣れちゃった方、おすすめです。これまでのそれらとは一線を画すサプライズが用意されています。この小説を、楽しもうと思って読む以上、騙されざるを得ないと思います。

中盤まで「ふーん」となる展開だと思いますが、どうぞ最後まで読んでください。

 

 

【第4位:あなたはここで、息ができるの?(竹宮ゆゆこ)】

竹宮ゆゆこさんの入門書だと思っています。本当は「とらドラ!」が入門としてはベストなんですけど、今時ラノベを勧めるわけにもいきませんので。めちゃくちゃ独特な味のある方ですけど、非常に癖になる人は癖になります。ドクペです。

本作は、時間ループものの最強の恋愛小説です。これ以上はネタバレになります。

 

 

【第3位:滅びの前のシャングリラ(凪良ゆう)】

隕石が落ちてみんな死ぬ話です。圧倒的バッドエンドの中で不思議と幸福になっていくお話です。自分の幸せについて考えたい方にお勧めです。

 

 

【第2位:孤宿の人(宮部みゆき)】

ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない。悲しいけれど、悲しさだけじゃない、そんなお話です。時代物が好きな人におすすめかな。

 

 

【第1位:神さまのビオトープ(凪良ゆう)】

世間の言う「正しさ」なんて、「普通」なんて、捨ててしまいたいと思っている方にお勧めです。私は本当に刺さりました。「わたしの美しい庭(凪良ゆう)」や「流浪の月(凪良ゆう)」もよければどうぞ。

 

 

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以上、途中からだいぶ適当になりました。

正直順位にほとんど意味はありません。1位は変わりませんが、そのほかは気分でコロコロ変わります。

 

総括すると、2020年は2019年から続く凪良ゆうさん一強時代の継続となりました。次いで、彩瀬まるさんと米澤穂信さんは安定化してきています。また、竹宮ゆゆこさん再ブレイクも盛り上がってきています。今後の作品が楽しみで仕方ないです。(皆様勝手に申し訳ありません。重ねて申し上げますが、私個人の中での話です)

 

2021年はどんな物語と出会えるか、ワクワクしかありません。

まずは積読本を減らしていかねば…。

『いまからあなたはタオルじゃなくて、ぞうきんよ』

桜庭一樹さんの「赤×ピンク」を読みました。年末年始は働いてるので、謎の読書欲が爆発しなければ、多分今年最後の本です。

 

やっぱ桜庭さんって天才だなと思いました。桜庭さんの人間性?について、私はよく知らないので完全なイメージですけど、桜庭さんの作品を読むと毎回そう思うんですよね。

 

今回の作品は、「ガールズブラッド」と呼ばれる非合法ガールファイトが舞台です。…意味わからんですよね、読んだ私もまだ正確には頭の中で具現化できていない状態です。プロレスみたいな感じです(プロレスのことも私よく知らないので偏見に偏見が重なってたらすみません)。

 

そんなぶっ飛んだ設定の中で語られるのは女性3名の人間ドラマです。少女と呼ぶには大人で、かと言って大人の女性かというと微妙な頃合いです。この少女と大人の狭間で揺れ動く感じを、タイトルで示唆しているのかなと思いました。そして、これを語るためにこの設定を思いつくというのが天才的すぎました。

 

少女には向かない職業」でもありましたけど、人間の不安定性を描くのが本当に上手いなぁと思います。

 

以下、ネタバレ有りで感想を。

 

 

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①まゆ

3名の中でたぶん一番年上なのに、一番幼く感じます。

幼い頃の虐待のトラウマから、愛への価値観が歪んでしまってるというか、自分ではもう檻から抜け出せない。

 

わたしを檻から出して、黙って頭を撫でてほしかった。

誰かがわたしを愛してるってことを、そうされることで知りたかった。

 

この部分がまゆの全てだと思います。だから、ケッコンマニアの彼が、檻から出してくれたというその一点のみで、まゆのすべての愛の対象になってしまったという解釈です。

 

ケッコンマニアの彼は受け止めきれなそうな印象を受けたので、二人はうまく行かなそうな気がしました。でも、まゆにとっては彼が全てで、代替不可能になってしまってるから、檻から彼に変わっただけでは…という感があり、3名の中で一番今後が心配です。

 

 

②ミーコ

ミーコの話、けっこう刺さりました。比べるのもおこがましいですけど、私と共通する部分というか、共感箇所が多かったです。

 

『わっかんないはずないだろ。みんなわかってるよ、そこは。悩みってのはその先にあるもんだよ』

皐月から性愛対象について問われるシーン。自己を確立した上で悩んでる皐月と、自己を確立していない、確立していないことに気づいていないミーコの、決定的に分かり合えない部分ですよね。私はミーコ側。何に悩んでるか分からず悩んでる側。

 

皐月のアドバイスのおかげで、自分の好きなもの、やりたいもののために闘うことができて、たぶんいい方向に吹っ切れたラスト。

 

自分の気持ちがわからなくなった時は、グダグダ考えるよりも、自分のこれまでの行動を振り返った方が、たぶん早い。やがて君になるでも似た描写がありましたね。

 

 

③皐月

前2名の話の頃から、何か隠してる感じをずっと匂わせてたけど、少し複雑な葛藤でした。ただ、やっぱりミーコの悩みとは対極にある悩みですね。

 

ミーコと皐月のハッピーエンドがワンチャンあるのかなってミーコの話でも思ったけど、ちょっと違いましたね。でも多分そういう世界線もあると思うというか、ミーコ途中で嫉妬まがいのことしてましたよね?穿ち過ぎ??

 

裸を見たくない、見られたくないってのは深いなぁと思いました。性愛対象として見てしまうから見たくない、自分が女であるという事実を確定的にしたくないから見られたくない、と。

 

千夏との出会いで皐月の中の何かが変わっていく。千夏と皐月はなんで互いに感じるところがあったのかな、そこはたぶん十分には読み取れなかったポイントです。

 

ラスト、皐月は明確に一歩を踏み出せたけど、千夏はどうだろうな。皐月と千夏との関係性が続くかどうかは、また別の話って感じがしました。

 

「ゴーホーム……』

「弱い羊のままのぼくで荒野を駆ける。」

凪良ゆう先生の「滅びの前のシャングリラ」発売に絡んで、オンライントークショーなるものがありましたので、参加しました。

 

本来なら多分東京の書店などで開催するようなものがオンラインでやって下さるとのことで、こういう点ではオンライン文化が浸透して良かったなと思うところです。

 

凪良先生は、トークショーは初めてとのことでしたが、出てくる話がどれも面白く、やっぱ小説家ってすごいなぁ、凪良先生の考え方やっぱり好きだなぁ、って思いました。

 

一緒に登壇された編集の方と書店員の方も、とっても凪良作品に対する愛が伝わってきて、どの話題にもすごく共感しながら聴くことができました。

 

備忘録として、特に印象的だった所をポイントでまとめておきたいと思います。

 

① 凪良先生って自分に正直な方

凪良作品から、自分の幸せについて少なくとも自分は肯定してあげよう、みたいなメッセージを受け取ることが多いですけれど、凪良先生からもその感じが非常に伝わってきました。

あくまで自分が書きたいことを書き、言いたいことを言う、ということが芯にある。とても力強い方だな、と感じました。

 

② 世界の終わりに、絶対読み終わらない小説を読むということ

これは結構ハッとさせられました。

「滅びの前のシャングリラ」を読む前は、最後の日まで普段通りでいたいな〜と考えていました。ただ読んだ後は、社会の脆さに気づいて、普段通りの難しさ・かけがえのなさに気づいたので、とにかく悔いなく生きたいな、とぼんやりと考えました。

そして今回。「絶対読み終わらない小説を読み始める。しおりを挟んで閉じておけば、また読める気がするから。」

物語は永遠です。でも、読み手にとっては読了が一つの終わりとなります。面白い本ほど、いつまでもその世界観に浸っていたくて、早く読み進めたい気持ちと読み終わりたくない気持ちが対立することがあります。その究極版だと思いました。読み終わらないまま世界が終わってしまえば、その人の中でも、その物語が永遠のものとなる。

トークショーでも言われてましたが、イスパハンの雪絵の考えと似ていますね。叶わないと分かっている、現実とは異なる世界線の存在を願うような考え。明日も普通にやってきて、小説の続きを読むことができる。明日やりたいことが明日できる未来。

こういう解釈のもと、「明日やりたいことを明日に残しておく」という人生最後の日というのも、良いものになりそうだ、と気づくことができました。

 

③ p94「弱い羊のままのぼくで荒野を駆ける。」

これです。「滅びの前のシャングリラ」で好きなシーンをみていくコーナーの時に、私がこのシーンというかセリフをチャットに投げたのですが、先生がご自身で気づいて下さって、これに言及して下さいました。

たぶん、それだけ先生の中でも思い入れの強い描写だったんだろうな、と思います。また、ここに込めた先生の想いというのが、まさしく私の解釈の通りでした。わざわざ見つけて言及して下さったこと、解釈の一致、この2つでめちゃくちゃ嬉しくて泣きました。

 

殺される際になって、完全に自己を確立する友樹。妄想の中に逃げることをやめ、今の自分のままを肯定して精一杯生きることを選択する友樹。上手い表現が見つからないですけど、友樹が完成した瞬間、って印象です。

 

以上です。トークショーで「推し」にまつわるお話がありましたが、今回で凪良先生が私にとっての「推し」の一つであることを改めて自覚することができました。

 

幸せな90分をありがとうございました。

今後もこういう機会があるといいな。

ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない

重めのお話ばっかり読んでると、たまには何も考えずに読める作品が欲しくなります。

 

半年ほど前、「森があふれる」の解釈でヘロヘロになってた時に、まさしく欲しくなりました。それでとある友人からオススメを頂いたのが「孤宿の人」です。

 

いや、宮部みゆきという時点で、何も考えなくていいはずがない……。案の定、ボリュームもたっぷりだったので、読み出すまでに時間がかかり、今になってようやくの読了となりました。

 

宮部みゆきさんは、実はあまりお付き合いがありません。3年ほど前に「ソロモンの偽証」という超大作を読み上げ、その名作さに度肝を抜きました。ただ、その分厚さにも度肝を抜いたので、それっきりとなっていました。

 

そんなわけで「孤宿の人」ですが、端的に言って名作でした。

ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない。悲しいけれど、悲しさだけじゃない。

 

状況が目まぐるしく変わるけれど丁寧で、置いてかれることなく、それでいてダレることなく、最後まで走り切る。「ソロモンの偽証」でも思いましたが、ここが宮部みゆきさんの魅力の一つと感じました。

 

以下、ネタバレありで感想を書きます。

 

 

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時系列でまとまりなく感想を並べていきます。

 

まず序盤。特に人からオススメされたものについては極力事前情報を入れずに読むようにしていて、裏表紙のあらすじさえ読まずに内容に入りました。

 

ほうが井上家で奉公している所からスタート。悲しい生い立ちから、井上家でのご縁へと繋がる。井上家でのほうの成長物語かな?と、この時は考えていましたよ…。この時点で、ほうへの感情移入はバッチリでした。

 

なので、琴江さまが死んだのはめちゃくちゃな衝撃展開でした。あっこれはそういう作品か…一番優しそうな人が…これは序盤から辛すぎる…。

 

でも時代小説で推理もの(だとこの時点では思った)は中々読まないので、ワクワクはしていました。

そして宇佐の登場。宇佐がいわゆる探偵役かな…?と思いつつ。

 

そして宇佐目線で語られる中で、琴江さま殺人の隠匿が図られる状況に。ほうへの感情移入が進む…。

 

そして、ほうと宇佐の同居生活がスタート。オススメしてくれた友人が好きそうなポイント(偏見)。ほうの心のこんがらがり具合は相当ですね…。「働かざるもの食うべからず」精神や、悪霊のくだりとか。宇佐も宇佐で、板挟みがしんどいなぁ〜。

 

一番好きなのは、やっぱり日高山神社への参拝です。舷州先生とのやり取りもあってすごく印象的なのです。いま思い返せば、ここが二人の関係性のピークというか、なんというか…。語彙力がないけれど、そういうことです。あと、後々まで生きてくる、雷除けのお守りね…。

 

あとあと、「おあんさん」という描写が好きです。前も書いたと思うけど、感情が込められている呼び名って表現が大好きなんです。

 

そしてほうが涸滝に連れて行かれる。あれ?琴江さまの事件の話というよりは、もっと大きい話だなと気づきました。

超重要人物なのに、一向に気配すら出さない加賀様ね。結局、上巻では全く出ずじまいでした。ここまで持ち上げられてるので、実は狂人じゃないんだろうな、とは気づいてました。

 

琴江さまの件については、美祢さまがすんなり(すんなりじゃないけど)認めちゃいました。そして親分の子供たちの事件…。

 

そして、石野さま。ほうは丸海藩に来てからは、それまでの悪いご縁を必死に打ち消すかのように、良いご縁に恵まれますね…。でも、彼も消えてしまうのですよ…悲しすぎる。

 

いよいよ加賀さまが登場。不思議な人だけど、やっぱりお優しい方でした。ほうは混乱しながらも、手習いを楽しみにするようになる。いいなぁ、ここらへんのやり取り。

 

阿呆のほうから、阿呆以外のほうになるだろうなと思ってはいたけれど、最後くらいの展開だと思ってたからアッサリ「方」が出てきたのは意外でした(これはミスリード?に近いアレでしたけど)。でも、涸滝から逃げる時に、加賀さまの言葉を思い出して勇気づくのはよかった。

 

逃げろって言われた時に、加賀さまに意見聞きに行くのは面白かったです。純粋に加賀さまを案ずる気持ち、手習いをまだ受けたい気持ち、手習などの恩義があるのに無言で立ち去れないという気持ち。ほうの純粋な気持ちがよく現れていました。

 

そして最後。宇佐の不穏な描写から、ほうが宇佐のもとではなく井上家に戻っていることからさらに不穏さを感じて覚悟したものの、しんどすぎる…。そりゃないぜ…。死際の宇佐に必死に語りかけるほうが、やばかったです。

 

そして加賀さまの死も確定する。その中で、「方」のほうから更なる進化を遂げ、「宝」のほうに…。あたらしい「ほう」を匂わせたところで思わず一旦読むのをやめ思考を巡らし、「宝」に思い当たった時が、本作で一番感情が溢れたところです。文字通り涙が止まらないというか、声出して泣いてたので、お家で読んでいて本当に良かったです。

 

本作は、どうしても悲しい物語だけど、悲しいだけじゃない。ほう目線で、琴江さまもおあんさんも加賀さまも死んでしまった。けれど、みんなとの繋がりが消えてしまったわけじゃないし、いつもそばで見守ってくれているから、悲しいだけじゃない。ひとりだけど、決してひとりぼっちじゃない。

 

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以上、主にほう目線になりました。宇佐目線の話ももう少し掘り下げたかったけど、元気があれば別でまとめる感じにしようかな。

 

今後のほうに、なるべくたくさんの幸福という宝が巡ってきますように。