ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

森の匂いがする

宮下奈都さんの『羊と鋼の森』を読みました。

 

2016年の本屋大賞受賞作です。以前からずっと気になっていて、なんだか勿体なくて読めていなかったのですが、ついに読みました。

 

ピアノ調律師のお話で、特にファンタジー要素はないのですが、なぜかとても幻想的で独特の世界観を感じる作品でした。文体がそうさせるのか、ピアノ調律師という普段かかわりのない職業がそうさせるのか、話の展開がそうさせるのか…。

 

そんな雰囲気の中で、それに120%マッチしたストーリー展開で、非常に完成度の高い作品でした。お仕事小説であり、外村青年の成長物語であり、幻想的な雰囲気がある一方でとことんリアルが追求されています。

 

それでは、以下はネタバレありで書いていきます。

 

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■ 主軸

彼と、各登場人物との関わり合いが主軸に物語が進んでいきます。ピアノ調律師に突然魅せられてから、調律師を目指し、四苦八苦して、自分の夢の解像度を上げていく成長物語。落ち着いた雰囲気で物語が進んでいくのに、なぜか非常に読ませる展開でした。

こういうほんのり暖かい物語、久しぶりに読んだかも…(笑)。今年の本屋大賞候補は重めだったもので…。

 

■ 双子の姉妹

登場人物の中では結構浮いた存在ですが、幻想的な雰囲気に非常にマッチしていると思いました。描写は決して多くないのに、復活劇にすごく心を動かされました。

 

『ピアノで食べていこうなんて思ってない』

和音は言った。

『ピアノを食べて生きていくんだよ』

 

和音の言う『ピアニストになりたい』というのは、仕事としてピアノを弾くことを選びたいというのではなく、ピアノを弾くことやそれに準ずることをもっともっと摂取していきたい、という意図なのですよね。和音にとってピアノは空気と同じで、摂取しなくては生きてはいけないものになった、ということですね。

 

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宮下奈都さんはお初でしたが、非常に暖かな気持ちにさせてくれました。また読ませてください…

白いだけじゃない少女たち

氷室冴子さんの『さようならアルルカン/白い少女たち』を読みました。

 

本作は、氷室冴子さんの初期傑作を今一度本にしたという作品集です。

 

氷室冴子さんについては、お名前は知っていましたが対面するのは初めてでした。ただ、こういう雰囲気の女流作家さんの作品はわたし好きになる傾向があるので、ビビッと来て読んでみたという次第です。

 

そしたらまぁ、見事なまでに刺さる作品たちでした。一つ前に読んだ芝木好子さんの作品集と同様、作品集だけあって強者ぞろいの短編集でした…。ここ最近、『愛じゃないならこれは何』から始まって『新しい日々』へと続き、本作につながって、個人的に最高傑作な読書が続いていて逆に怖いです…今年後半はどうなっちゃうんだ…。

 

オビ文では『少女小説家』と書かれていたので少女小説なのだと思っていたのですが、そんなことはなかったです…。オビ文にある通り、少女小説家としての原点みたいな作品が多い雰囲気でした。

 

個人的には『あなたへの挽歌』がめちゃ好きです。

 

では、以下ネタバレありで書いていきます。

 

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■ さようならアルルカン

どこか神秘めいた少女と少女の出会い。王道のガールミーツガール展開だと勝手に思っています。

次第に神秘めいた事柄が世俗的に落ちてゆくにつれ、少女が少女に祈ることをやめる展開も王道ですね。(最近何かにつけ"祈り"と紐づける癖があり、良くないと思っています…)

ラストの邂逅は展開として非常に鮮やかです。

 

■ あなたへの挽歌

解釈不一致だった推しを捨てる話です。我々がいかに自己中心的か、他者にいかに理想を押しつけていることか!がよく分かります。

 

■ おしゃべり

これはエンタメとして非常に完成度高かったです。10ページの短編なのにこの満足度は異常ですよ…。これは逆で、理想を押し付けられた推され側の物語ですね。

 

■ 悲しみ・つづれ織り

せつねぇ…。これもめちゃ好きです。ふられた後に、自分が相手をいかに好きだったか気づくのは、悲しいことのように思うけれど、お姉ちゃんのおかげでかけがえのないことになりますね。

 

■ 私と彼女

これもエンタメとしての完成度が異常。ほっこり笑えるのと、ちょっぴりシリアスなのと、バランスがいい。

 

■ 白い少女たち

これだけ短編ではなくて中編~長編?ですね。白い少女たちが、白いだけじゃないことに苦しみながら、それでも生きていく成長?物語です。個人的には倫子のなんだかんだの面倒見の良さに惚れます。

 

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ぶっ刺さり作品集だったので、また氷室冴子さん読みます。最近読みたい作家さんが増えすぎていてやばい…。

新しい日々

芝木好子さんの『新しい日々』を読みました。

 

こちらは、以前オシャンな本屋に立ち寄った際に買った本です。折角なら、普段の本屋では手に入らなそうな本を買いたいな~と思っていたところで、ビビッと目が留まりました。

 

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めちゃくちゃオシャンじゃないですか(語彙力)。完全に装丁買いで、中身も作者さんもよく知らない状態で買いました。

 

ところがどっこいですよ、私の好みをどストレートに打ち抜いてくる、ベストオブザイヤーの筆頭候補作品でした。運命ってあるんですね(単純)。

 

やっぱり私は一昔前の雰囲気や生き方が非常に好きで、本作はいわゆる戦後の時代において新しい日々を送らんとする人々の生活が綴られています。本作は芝木好子さんの短編小説から選りすぐりを持ってきた作品集ということもあり、短編集ですがどれも主力級の作品たちでした。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

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■ 新しい日々

百合の人生における分岐がいくつも見えるような作品でした。

家出をして、夏雄の工房にきて、夏雄と結婚する人生、雄次と付き合う人生、図案さんとして生きていく人生、…。

そんななかで、彼女のささやかな抵抗として家出があったものの、どの人生を歩むか自らが選べる状況下にないことが、この時代、とりわけこの時代の女性を象徴的に表しているように感じました。

 

■ 脚光

これ一番好きかもしれない。あきからおくさまに向けられる感情って、祈りですよね。私の解釈では推しを推す感情と類似性の高い感情です。やっぱり言語化されてないだけで昔からある感情ですよね…。

おくさまが壊れてしまったのは、あきからの祈りが原因ではないけれど、おくさまが自身を祈りの対象として見ていたってことですよね。自身の祈りの対象である偶像としてのおくさまと、自分の現実的な立ち位置のギャップに、遂に耐えられなくなってしまった。

やはり生身の人間が祈りの感情を向けられることには耐えられないのだなぁと思いました。

 

■ 白萩

とても印象的な作品。プラスの感情でもマイナスの感情でも、何かしらの引っかかりがないと心に残らないんですよね。私を選ばなかった徹生に惹かれる感情がとてもわかります。

俊二が低くわらいながら、君の偶像も落ちたな、と言った。

これってどういう意味なんだろう。君の偶像=徹生なら俊二は見抜いていることになるし、君の偶像=淳なら的外れすぎてとことん俊二っぽい。後者だといいな。

 

■ 晩秋

これも洋子の、かつての祈りの対象であった桂さんとの物語。これはラストの魅力がすごかったです。過去と現在、幻想と現実が入り乱れる感情は晩秋がよく似合う気がします。

 

■ 冬の梅

これはとても理性と感情のはざまな雰囲気が好きです。

 

■ 遠い青春

若子と千夏の最期の掛け合いが、フィクション味が強いけれど好きです。

 

■ 老妓の涙

これも理性と感情のはざまな雰囲気で好きです。高野くんの圧倒的な噛ませ犬感と、本人は自覚がないのがとてもとても悲しい。

 

■ 十九歳

奥様との秘密の関係性が光る作品です。ラストの奥様の台詞がどんな意味を持っているのか読み取り切れなかったけど、由木にはしっかり伝わったようでなにより。

 

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また新しい作家さんに出会えてハッピーです。ゆっくり読んでいきたい。

キング・オブ・ポップ

桜庭一樹さんの『傷痕』を読みました。

 

桜庭さんはこの前『製鉄天使』を読んだばかりなので、もう少し間を開けたかったのですが、ふと気づいたら積読本の中の桜庭率が異常に高くなっていたので、目についたこいつを読みました。桜庭作品はまだまだ読んでいない作品が多いので、目につくとついつい買ってしまうのですよね…。

 

本作も、非常に桜庭さん味を感じる作品でした(桜庭さん味が何かということについては、すみませんが言語化できません)。とあるスターの突然の死に対して、様々な主人公が様々な立場から衝撃を受ける作品でした。

 

ファンタジー要素は基本的に少ないのですが、全体的な雰囲気はファンタジー寄りで、独自の壮大な世界観が組みあがっていました。

 

以下、ネタバレありで書きます。

 

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最期まで謎に包まれた部分はありましたが、それが主題というよりも、スターというものの特殊性が描かれていたように感じます。幼少期からマジョリティとはかけ離れた人生を送り、孤独感と独自の論理で闘っていくさま、またメディアからあることないこと書かれ追いかけまわされるさま…。

それと同時に、スターである以前の人間としての彼、というのも印象的でした。最期のイベントで傷痕が放った台詞が印象的です。

『考えうる限りの最上の父親だったということです。

 

傷痕にとっては、最期まで”スターの死”ではなく”父親の死”なのだなぁと、このブレなさにしみじみしました。

 

作品全体の雰囲気としては、先程も書いた通り、ファンタジーではないけれどファンタジーな雰囲気で、世界観に置いていかれないように頑張って読んだ感があります。

マイケルがモデルになっているようなので、マイケルに対する知識があれば、もっと楽しめたのかなというのが心残りです(マイケル知識ゼロな人間)。

ヴィーナスの命題

真木武志さんの『ヴィーナスの命題』を読みました。

 

友人からのオススメ本で、確か『なんだかよく分からなかったので読んでほしい』みたいなオススメのされ方だったと思います。

 

ごめん、私も分かりきることはできなかったよ…。

 

本作は青春ミステリ小説ですが、明確な解決編がなく、犯人及び真相が確定されないまま終わります。私も読み終わったのにモヤモヤを抱えたままだったので、そのまま2週目を読みましたが、絞りきることはできませんでした。

 

でも、綾辻行人さんの推薦文がついており、『隅々まで考え抜いて書かれた良質の本格ミステリ』であることと『最後まで読みとおしても事件の犯人や真相がよく分からないという人がいない保証はできない』ことが保証されています。これは逆手にとれば、明確に犯人や真相が特定できる、ことを示しているわけで、本作品を余す所なく解釈できればこのモヤモヤは晴れる、ということになります。

 

古い作品のためか、本書の特殊性のゆえか、はたまた人気がなかったためか、ネット上の考察民が少なく、納得のできる考察が転がっていません。そうなれば、自分で読み解くしかあるまいと思って2週目読んだのですがね…。

 

小説としては、登場する高校生たちが軒並み迂遠な言い回しを使いこなしており、こういったキャラに憧れる高校生は沢山居れど、実際に使いこなせる高校生は居らんだろうと思うので、非常にフィクション色の強いものとして楽しむ必要があります。特に前半は、意味も読み取れないので、日本語を読んでいるのに日本語を読んでいない感じでした。

 

一方、中盤から終盤にかけての畳みかけ方と盛り上げ方は異常なほどでした。色々な事情が明らかにされ、彼彼女らが何について話しているかがようやくわかってくると、一気に不穏の正体に近付いた感じがして、展開で一気に読ませる構成でした。とても面白い読書体験でした。

 

では、以下はネタバレを思いっきり入れて、現時点での私の拙い考察を長々と書いていきたいと思います。

 

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本作は本当に謎が多いので、思いつくままに書いていきます。まとまりがなくてすみません。

そして、基本的に物的証拠はほとんど登場せず、アリバイもあってないようなものなので、各登場人物の言動からの考察が主になると思います。

 

■ 黛は自殺か他殺か

そもそもこの点について、断定できる証拠を私は見つけられませんでした。状況・雰囲気としては、ほぼほぼ他殺なのだと思いますが、他殺でなくてはならない論理、高槻が語った恐らくは作り物のストーリーを否定するだけの証拠ってなくないですか…?

自殺である場合、2-8から飛び降りようが2-1から飛び降りようが知ったこっちゃないので、高槻(の裏に居るしのぶ)がこんな回りくどい展開を準備をして少女A及び乃木を説得する必要があるのか、不可解ではあります。偽装するも何も、そもそも自殺なので…。そもそも黛の事件に関して、しのぶはあまり興味がないようでしたので…。

他殺である場合、それを自殺と偽装するよう画策することは、乃木と益子の関係性にヒビを入れないという、しのぶのささやかで小さな物語を守る姿勢と調和します。

以降、他殺という前提で話を進めます。

 

■ 犯人=少女Aなのか?

これも、色々な可能性があると私は思ってしまいます。結局、どこに嘘が混じっているかどうかを見極めないといけないのですよね…。

犯人=少女Aである場合、状況は簡単ではあります。落下元の場所と自殺/他殺に嘘が混じっているだけで、黛は2-8で少女Aに突き落とされて死亡した、ということになります。

 

■ しのぶ犯人説

そうでない可能性のうちの一つは、しのぶが犯人である場合です。しのぶは少女Aが逃げていくのを観測し、状況を理解し、自分の物語を展開させるために黛を突き落とした…。しのぶは当時廊下に居たと考えられるので、物理的には十分可能な状況下であったと思いますが、いかんせん動機が不明すぎますね。しのぶの物語にとって、黛が死んでいないなら死んでいないことに越したことはないように思いますので。

 

■ 乃木犯人説

他の場合としては、乃木犯人説ですね。これは数少ないネット上の考察で書かれていて、あぁその可能性もあるのか…と思ったものです。乃木については、動機はいくらでもあって、物理的にも、語られていない部分を好意的に解釈すれば、可能ではあるのかなと思います。色々な場面でも、乃木が犯人であると考えると意味深な描写もいくつかあります。しのぶの行動理由も、あくまで乃木と益子の関係性を見たいので乃木の殺人を握りつぶすという理由がつきます。少女Aについては、本当に無名の少女で、突き落としていない。黛と少女Aのやり取りがあった後に乃木が突き落とした、とすれば矛盾はありません。

…でも、個人的には納得できない箇所がいくつかあります。パート56の、乃木の妄想上での黛とのやり取り。この黛が乃木が妄想の上で創造したものとすると、直接的な表現はなかったとしても、もっと違った会話になるのではないでしょうか。黛視点で乃木犯人であることは明確なので、もっとそのことを迂遠になじるような表現になるはずだ、と私は思います。乃木が多重人格説はありますが、私的にはそれはアンフェアな感が否めません。

 

★以後、犯人=少女Aという前提で話を進めます★

 

■ 少女Aは誰か??

これは重要な謎の一つです。ある程度の話を信用していかないと絞るものも絞れないので、

・少女Aは2-1の女生徒である

・事件当日、現場から逃げ出した際に乃木が前を走っていた

は真実と仮定しておきます。そうすると、自ずと説は3つです。

 

■ 少女A=無名の少女説

これは一番順当な説です。少女Aとしてしか語られていないのであれば、アリバイも動機もなんでもありです。しのぶの物語としても、少女Aには全く興味がない一方で、乃木と益子の関係性、そしてしのぶ自身にとって障害となり得る存在となるので、自殺であったと説得する意味があります。でも、順当すぎて少々面白くない…(身もふたもないな)。

 

■ 少女A=柳瀬説

これが、個人的には一番面白く、そして現時点で主張したい真実になります。各人物の描写を素直に受け取った時に、一番矛盾のない説なのではと…。

私がそう思わずにいられなくなっているのは、一つの気付きに理由があります。もちろん可能性の一つにすぎず、無理があるのかもしれませんが。

「彼女」もまた黛に呼び出されていた。

しかし「彼女」は柳瀬ではなかった。

p364のこの表現です。順当に読めば、黛は柳瀬を呼び出したつもりが、別の人(少女A)が来てしまった、という表現になりますが、『黛が呼び出した「彼女」は柳瀬ではなかった』と読むこともできませんか??この時点で、黛は柳瀬ではない別の女生徒に心を奪われていた。席替えによってその女生徒が居た場所に柳瀬が収まり、柳瀬に呼び出しが届いてしまった。『バカじゃないのってワラッてすませてあげるツモリでした』という発言も、柳瀬っぽい言い回しなんですよね…。まぁ、黛に対する各人物のスタンスが分からないのでなんともですが。

その後の描写から、少なくとも高槻と乃木については、少女A≠柳瀬と認識していることがわかります。逆にとれば、少女Aこと柳瀬は、高槻の言動から、少女A=柳瀬と思われている心配をする必要がありません。その後も、そういった表現はありませんでした。

また、そのあとに高槻がしのぶに対して言った『少女Aを見つけるのは簡単ですよね』にしのぶが答えなかったのも意味深に見えます。しのぶは少女Aに全く関心がなかったわけではなく、少女Aこと柳瀬を守る行動であったとみることができます。

そして、事件そのものについてです。

まず、物理的には十分可能です。まず乃木と会話をしたのち、黛と会って突き落とす。その後、車の暴走事件を引き起こす。2つの事件が時間的に十分乖離しているのは、しのぶが2つの事件をどちらも目撃していることから明らかです。このため、柳瀬としても物理的には可能です。

動機は、やや弱いです。現時点での柳瀬は公文を好いていると思われるので、黛に否定された所で別になんとも思わないような気もします。ですが、p284の『勘違いからはじまっていることなんだから、すべてを無効にしちゃってもイイはずなのよ』というのが非常に意味深に聞こえています。

場面展開と心情変化としては、自然です。なにより、2回目月曜日は柳瀬として描写されているシーンが一つもないので、場面の繋がりでおかしなことにはなっていません。

 

■ 少女A=益子説

一応これもあります。この場合、しのぶが画策する理由付けは一番強くはなります。

ただし、益子視点に近い場面がいくつかあり、その場面との接続が著しく悪いです。初読の際に匂わせていた犯人ムーブも、基本的には乃木との関係性の件で全て説明がつきますし。

特に致命的だと思うのは、しのぶのことに詳しくない描写があることと、2回目月曜日の場面の流れですね。高槻と会話し、少女Aとしてしのぶとも会話したのち、益子として堂々としのぶとやり取りをする。ちょっとイメージとのギャップを感じます。

 

■ 少女Aに残る謎

少女Aは、終盤において「彼女」と括弧書きで表現されています。また、パート42でも少女Aと思われる語りがあるのですが、ここでは"彼女"と表現されています。この表記ゆれには何か意味があるように思われます。単純に一人称に近い表現が"彼女"、他人からの呼称として「彼女」であり、パート42も少女Aであるというのが好意的な読み方です。一方で、パート42の"彼女"は少女Aではない可能性もありますね。特にパート42の語りは意味深すぎて、謎が多いです。

また、ここで公文とすれ違って?いるので、これが柳瀬やしのぶだと仮定した場合、無反応なのはおかしい気もします。友人と歩いていたのでまぁ単純スルーの可能性もありますが…。

 

■ 黛転落の流れはどういったものか?

少女Aが犯人で、基本的には高槻が説明したような流れが概ね真実だとするならば、黛はなぜいきなり窓を開けて『来てくれたんだ』と言ったんでしょうか…。自然に考えれば、窓の外に意中の相手が居たという事なんでしょうかね…?一瞬、科学室に居る益子が意中の相手!?!?とも思いましたが、読み解くと転落したのはグラウンド側で、廊下の中庭側でないと科学室を見ることはできないようでした。

 

■ 公文聡美の物語とは?

明確には語られませんが、公文聡美と高槻が恋仲か何かに進展したが、公文兄はそれが認められないか何かで、高槻と決闘した。このままではグループ崩壊を悟った公文聡美は、未来に何も描けなくなり、つまり今以上の幸福を得られることはないと判断し、飛び降りた。こんな感じでいいんでしょうかね。そしてしのぶはその判断を否定するために、公文聡美よりも大きな物語を探している、と。

 

■ 顛末

「保留」オチは、結構すきです。乃木が多用することで印象付けていたし、なにより真相が分からねぇ!って気持ちを「保留」にすることができます。

 

■ そのほか、謎の多い伏線たち

気になった解釈できそうな描写たちをただただ列挙します。

 

◎パート1

乃木がなぜ窓について執着しているか?ただこれは事件前なので、ただの象徴的な描写というだけという説が濃厚。

乃木が、柳瀬が居ることを意外だと描写しています。この時間に、ここに居ることが意外ということは、何らかの理由があって(黛に呼び出されて)、ここに居ることを示唆しているようにも思われます。

 

◎パート4

この描写だけでは、2-8か2-1かは判断できません。

 

◎パート9

中学時代に脅迫文を送った人物はついこないだ死んじゃった??黛なのでしょうか。学校はT中のはずです。「中学時代」というのは、パート42にも出てくるので、何かしら私の認知していない意味があるのかもしれません。

 

『いまの私の意識を占めているのは、ささやかだけれどもっときれいな物語よ。~(中略)~。死という起点には揺るぎのない重さがあるから、そこからどんな展開があって私の大切な物語を浸食してしまうのか、それがとても心配なのよ』

しのぶの行動理由はこれに尽きると思っています。乃木と益子の物語を、意図せず重なってしまった黛の死と遠ざけたい。また、どこまで意図的であったかは分かりませんが、S中メンバーに公文聡美の自殺を受け入れさせたい、というのもあったのでしょう。

 

◎パート10

時系列的に、公文の『さとみ』という寝言で、牧永はしのぶの意図を知った(勘違いだったが)ということでしょうか。柳瀬を公文聡美の代用とする、ような。

 

『ちゃんと約束は守るからね』

柳瀬と公文の約束とは何か??

 

◎パート13

結局の所、公文の飛び降りの意図が十分には理解できていない。このパートは公文の様子がおかしいよね…益子が部長である世界線からやってきたみたいなトンデモ展開ある…??

 

◎パート16

美久子はトコトン謎なんですよね…。このキャラが居る理由とは…?このパートが差し込まれる理由とは…?通称"中庭の彼女"であるため、"彼女"と表現されていることに気づきました。パート42は美久子だったりするのか…?わからん……。美久子は1年生のはずなので、犯人候補の対象外とは考えています。

また、牧永が『クミコ』と呼ぶ理由も不明ですが、文脈的に商売をしている時の美久子のハンドルネームなのでしょう。

 

◎パート18

益子の隣に居た子は少女Aなのかどうか…。断定的表現はないと思うので、特定材料にはなり得ません。

 

◎パート19

夢の話は一理あるなぁと思いました。

 

◎パート29

益子は、柳瀬犯人だと判断したうえで、かばうために高槻を犯人にたたき上げている、という理解でよいはず。

 

◎パート30

柳瀬は、車の事件を公文に問い詰められると覚悟していたが、そうじゃなかった。

虹の比喩を使って、家長である創一が不問にしているのであれば、柳瀬自身を含む家族は、この件を不問にすべきだ、と警告している、という理解でよいはず。

 

◎パート32

益子が投下した、柳瀬に関する爆弾とは結局なんなのか??

これが結構な鍵を握っていると思うのだが…。元父親とのトラウマっていうのが自然な解釈だが、それでよいのだろうか?

 

◎パート29

ここだけ時系列が戻る理由は何??

『護も偉くなったものね』これは、少女Aの行動を推測する際に、再びしのぶから発せられます。そう考えると、益子犯人説を示唆しているともいえなくもない…。

 

◎パート37

しのぶが乃木の月曜日の経緯を聞いているのは、しのぶと同じように犯人に危害を加えられる可能性を危惧したから、でいいはず。

乃木も書き置きで呼び出されたのなら、これも席替えの効果が発揮されている??と一瞬思いましたが、ご丁寧に乃木のカバンは特徴的な紐になっているとの描写があり、乃木と益子の関係性なら間違えようがないかと思います。

 

◎パート39

私の理解では、乃木は落とされたくだりで、事件の概略を理解したけれど、少女Aについては特定できていない状態です。

 

柳瀬聡美→公文聡美のくだりはテンションあがったなぁ。でも最終的にはミスリーディングなのだろうか…。

 

◎パート41

ここでも柳瀬の爆弾が何なのか気になる…。

『このつよさはなんなんだろうって、すごく興味が湧いたの。もっと知りたくなった」

…だから落としてみた??

 

ああ――窓は、逃げ道だったんだ。

これが示唆するところが分からねぇ~~。

 

◎パート42

一番の謎パート。中学の運動会の脅迫文に何か絡んでいる"彼女"が、乃木を突き落とした"彼女"が、少女A宛ての手紙を見つけて持ち出す。順当に考えれば"彼女"=少女Aでいいんだが…。

 

◎パート43

「月曜の朝の布石の意味」ってなんでしょう???

1回目月曜については、朝の描写なかったと記憶しており、2回目月曜も朝の描写はほとんどなかったように思うが…。

 

◎パート47

『乃木が一番わかってるはず』に対して乃木がめちゃくちゃ動揺しているのは、なぜだろう…。乃木が犯人だから。この時点で、乃木は益子犯人説を検討しているから。でしょうか。個人的には後者。このあとに益子が『ぼくだったのかも』というのにも動揺していることから。

「人間の間引き」の話を持ち出すのは、乃木犯人説をほのめかしてなくもない…。

 

◎パート51

少女Aの台詞がカタカナ調なのはなぜ?個性を埋没させようとしている?

 

■ まとめ

う~~ん、わからん!(笑)

多分ですが、推理小説における技術に対して造詣が深くないとわかりようがないのかもしれません。

モヤモヤは一向に晴れませんが、ずっと考えてしまうくらい、新鮮で印象的な読書体験でした。いつか真相を知ることができますように。

恋愛地獄小説だって一生推してろ

斜線堂有紀さんの『愛じゃないならこれは何』を読みました。タイトルオシャレ。

 

最近、YouTubeの『ほんタメ』というチャンネルを時々見ているのですが、これの企画の大賞に選ばれた作品です。前々から、チャンネル出演者の齋藤明里さんと好みの方向性が似ているなぁと思っていたので、今回それを確かめるために読んでみました。

 

そしたらまぁ、恋愛小説において私が好きなタイプのど真ん中を往く地獄小説でした。外見は違うけれど、私の好きな田辺聖子作品と内面は同じ、そんな感じでした。

 

恋愛を主とする強い感情に勝つことができずに、わかっているのに地獄へと突き進む登場人物たち。私は、潜在的な強い共感のもと読んでいるような気もするし、はたまた私がこれまで持ちあわせたことがないこの強い感情たちに恋焦がれる想いで読んでいるような気もします。

 

斜線堂有紀さんとは今回が初めましてになります。普段はミステリを書かれている方のようなので本作のような恋愛小説は珍しいのかもしれませんが、私のためにもっと書いてくれ…と思ってしまうレベルです。

 

どの短編も好きですが、特に『ミニカーだって一生推してろ』と『きみの長靴でいいです』がめちゃんこ好きです。

 

ちなみに既読の方向けに紹介しておくと、本作の番外編?的にもう一つ短編が以下で公開されています。これもめちゃんこ良いので読んで…。

note.com

以下、ネタバレありで書いていきます。

 

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■ ミニカーだって一生推してろ

ファンをストーカーするアイドル。設定がもう地獄ですよね。

推しを推すということは、推しを祈りの対象とすることと非常に近しいと思っています。一方で、生身の人間は祈りには到底耐えられないので、一つの手法として、アイドルという偶像を推す・推してもらうというのがあるのだと思います。

めるすけの基本スタンスとしての推し方は、そういった文脈に沿った健全な推し方でした。あくまで不可侵の存在として推しを推す。なんて健全なのでしょうか!!

一方、瑠璃からめるすけへの感情・祈りというのは、非常に危険ですね。瑠璃は常にめるすけを可侵の存在として認識しています。でも、めるすけに伝わってしまったら最後、めるすけは自分に向けられた祈りには耐えられないはずです。

瑠璃もそのことは重々承知だから、すんでの所で踏みとどまった。祈りの対象ではなくて恋愛の対象であったなら、めるすけのお家で対面する未来を選択してもよかったのかもしれません。瑠璃の中ではまだ、"自分を推してくれているめるすけ"という偶像を推していたいという感情が、恋愛感情よりも強いのかもしれませんね。

ラスト、ミニカーを自分の比喩としてめるすけに迫る瑠璃。非常に厄介な道を選びましたね…。瑠璃から無意識に影響を受けためるすけも、次第に危険な推し方になりそうな雰囲気が…。でもどうかな、いつかミニカーになっちゃうのかな。

 

というか、タイトルがいいですよね。センス抜群すぎます。

 

■ きみの長靴でいいです

非常によい~~。

妻川から妃楽姫への感情って、これもいわゆる"推し"への感情ですよね。妃楽姫本人ではなく、デザイナー妃楽姫を偶像として推している。そんでもって妻川の場合は、自分もその偶像の一部として加わることで、自分の理想の世界観を構築する。

一方、妃楽姫から妻川への感情は、まさしく恋愛感情ですよね。『ガラスの靴より長靴がよかった』によく表れています。

そんでもってラストが、めちゃんこよい。妃楽姫は恋愛感情に流されて妻川の求める偶像を演じるのではなく、自分の求める理想の舞踏会を貫かんとするラスト。

 

はい、そしてこれもタイトルセンスがとんでもないですね。

 

■ 愛について語るときに我々の騙ること

これもよかった…。

この3人については、各方面への感情を一言で言い表せるような関係値ではないですよね。ぐっちゃぐちゃに混ざりあいながら、誰もどうやってバランスを保っているか分かっていないけど、なぜか崩れていない状態。崩し方はいくらでも思いつく。

3人に拘っていた鳴花の感情が、園生とのキスで一気に転げるのは激おもろポイントでした。そう思ったら新太に転がりそうになりながら、ラストの着地は見事。

私は泰堂新太を愛するように、春日井園生のことを愛している。

 

■ 健康で文化的な最低限度の恋愛

これこそ地獄。一目ぼれの弊害。しんどいし、この先地獄しかないってわかっているのにやめられない。いつかばれるかもしれない恐怖を常に傍に抱えつつ、歩んでいくしかない。

 

本筋からは大きく外れるけど、津籠の登山に対する向き合い方に共感しかなかった。

山に登ることは、自分が自分でいられる時間を作ることなんです!

 

■ ささやかだけど、役に立つけど

まさか続きが読めるとはー!読んだときになんとなく思いましたが本作だけ書き下ろしという感じですね。

この先に地獄が待っていようとも、今の自分の欲求にまっすぐに生きる。これは私の目指す在り方です。

ささやかだけど、役に立つけど、それでも私は私のために逆を行く。

 

■ 転ばぬ先の獣道

この先が、先がみたい…!!

ラストの龍久のズレてる感じがたまらない。この先、月子を不幸にするタイプのズレ方だ。トラという地獄を選ぶ月子をみたい…。

 

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2022年読了作品で暫定トップとして良いんじゃないでしょうか。大満足です。

本屋大賞2022、ご馳走様でした!

昨年に続いて、今年も本屋大賞ノミネート作10作を、すべて読むことができました。

 

とても濃密で幸福な期間でした。新しい出会いがあり、未知の世界との触れ合いがあり、本屋大賞はやはり多種多様な作品がそろうなぁとしみじみ感じました。

 

さて、今年も甚だ僭越ながら本屋大賞順位を考えていきたいなと思います。昨年よりも経験値はついている自負はありますが、10作読んだ感想としては、『これは当てるの無理だな』という感触です(後述)。

 

基本ネタバレなしで書いていきます。

 

本屋大賞の選考方法

本屋大賞の二次選考については、各書店員の方々が、10作を全て読んだうえで、トップ3を選ぶという形式になっています。点数は1位>2位>3位となりますが、4位以下は全て0点というのが注目点だと思います。

後述しますが、今年のノミネート作はかなり拮抗していると思います。そうなると、1位を取りやすい作品というよりも、どんな方でもトップ3に入ってくるような作品が強いのであろう、と思っています。つまり、好き嫌いがハッキリわかれるような作品は選ばれにくい、ということです。

また、短編は長編に比べてやや不利のようです。特に、完全独立した短編集だと、本単位で推すのにためらいが生じる側面があるのではないかなぁと思います。その点、連作短編であればそこまで不利ということはないかもしれません。

 

本屋大賞の目的

本屋大賞は、『全国書店員が選んだ一番売りたい本』です。『一番売りたい』本です。つまり、他に売る・売れる理由のある作品は敬遠される傾向にあると思います。具体的にいえば、既にほかの文学賞を受賞している作品は選ばれにくい傾向にあると思います。

直木賞を例にみると、過去に直木賞と同時受賞したのは『蜜蜂と遠雷』のみということです。つまり、『蜜蜂と遠雷』レベルの圧倒的な面白さ、かつ全員に受ける要素がないと厳しい、ということだと思います。

 

■ 近年の受賞傾向

2018年:かがみの孤城

2019年:そして、バトンは渡された

2020年:流浪の月

2021年:52ヘルツのクジラたち

 

これらを見ていて気付いた共通点があります。『生きづらさを抱えた人の、ささやかな救いとしての"繋がり"』がテーマになっていることです。詳細は各作品のネタバレになってしまうので避けますが、これは気づいたときハッとしました。

 

■ 順位予想

1.正欲(朝井リョウ

2.スモールワールズ(一穂ミチ

3.同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)

4.赤と青とエスキース(青山美智子)

5.硝子の塔の殺人(知念実希人

6.黒牢城(米澤穂信

7.六人の嘘つきな大学生(朝倉秋成)

8.残月記(小田雅久仁)

9.星を掬う(町田そのこ)

10.夜が明ける(西加奈子

 

個人的満足度の順位については、黒牢城が急上昇する以外は、大体おんなじ並びです。

 

■1~4位総評

私の中の満足度はほぼ並列です。

そのうえで、先程の『生きづらさを抱えた人の、ささやかな救いとしての"繋がり"』というのに見事にマッチし、長編である『正欲』が1位になると予想しました。

性欲をテーマにした少しセンシティブな側面がありますが、裏を返せば性欲は人類共通のテーマであるので、それだけで本作を否定的にとらえることは難しいと思います。

かつ、10作を見渡した時に、読者(の価値観)に与えるインパクト・印象はダントツで一番だと思います。トップ3のどこかには入れたくなるんじゃないかなぁ。

 

■ 5~6位総評

私の中の満足度は、1~4位とほぼ並列です。つまり、私の中では6/10作がほぼ並列というとんでもない状況になっています。『大賞当てるの無理だ…』と思った理由です。私としては、1~6位のどれかが大賞を獲ったら、『だよね~』って感情になると思います。

この2作は、面白さは間違いないですが、ゴリゴリのミステリ、時代小説と、ジャンルがやや敬遠されやすいのかなと思ってワンランク落としました。

 

■ 7~10位総評

私の中の満足度は、6位までと比べるとやや落ちますが、どれも本当に読んでよかったと思える作品たちです。

これらについては、本屋大賞というフィールドにおいて、明確に弱点があるな、と感じたのでこの順位とさせて頂きました。弱点と各読者の相性によっては、ダントツ1位になる作品も多いと思います。

 

★以下、1作品ずつ見ていきます。ネタバレと呼べるレベルのことは書いていないつもりですが、気になる方は線から線まで読み飛ばしてください★

 

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■ 1.正欲(朝井リョウ

1位に選んだ理由は、上に書いた通りです。雰囲気が『流浪の月』と似ているんですよね。『流浪の月』を選んだ書店員なら選ばざるを得ない気がする。

10作の中で、私の価値観を揺さぶった唯一の作品です。

 

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■ 2.スモールワールズ(一穂ミチ

スモールワールズを1位にするかどうか、めちゃくちゃ悩みました…。

最終的には、短編であることを理由に、無理やり2位にしましたが、逆にいうとそれくらいしか根拠はありません。

 

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■ 3.同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)

間違いなく圧倒的に面白いですが、少々長すぎるのが懸念点です。また、アガサクリスティー賞の受賞などもあり、既に圧倒的に売れているので、わざわざ本屋大賞に選ばなくても売れているという側面もあります。

 

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■ 4.赤と青とエスキース(青山美智子)

スモールワールズよりも強めの繋がりを持った連作短編集で、10作の中で一番ほっこりめの作品だと感じました。なので、もっと上でもいいのです。

でも私の中では、昨年ノミネートの『お探し物を図書館まで』は超えることはできていないんです。書店員の皆さんもおそらく昨年も読んだ方が多いと思うので、どうしても『お探し物を図書館まで』が比較対象になってしまうんじゃないかなぁと思います。

 

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■ 5.硝子の塔の殺人(知念実希人

これも間違いなく面白い(n回目)のですが、ミステリ好きのためのミステリ、という側面が強く押し出されているので、万人に受けるか、というと若干不利かと思いました。

 

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■ 6.黒牢城(米澤穂信

これはとんでもなく面白い(n回目)のですが、いかんせん受賞しすぎている。このミス、直木賞、そのほかあらゆる賞を総ナメしているので、宣伝文句はほかにいくらでもあるんですよね…。それでも時代小説はなかなか厳しい闘いを強いられているのかもわかりませんが。

 

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■ 7.六人の嘘つきな大学生(朝倉秋成)

同じミステリの『硝子の塔の殺人』と比べてしまうと、ミステリ内ジャンルが違うとはいえ、少し見劣りしてしまう部分があったかな、と個人的に感じました。

 

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■ 8.残月記(小田雅久仁)

ゴリゴリのファンタジーなので、読み切れなかった…という人が一定層出そうな作品だと感じました。世界観にはめちゃくちゃ浸れますよ…。

 

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■ 9.星を掬う(町田そのこ)

昨年、本屋大賞を受賞された町田さんですが、昨年の凪良さん同様、ややそのことが不利に働くかなぁと思いました。

何より、掬い方は見事な作品なのですが、いかんせん重すぎる…。

 

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■ 10.夜が明ける(西加奈子

これも濃厚な物語を堪能できますが、いかんせん重すぎる…。

 

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■ まとめ

今回は私の中で横並びが多すぎて、なかなか難しい予想立てでした。

途中でも書きましたが、1~6位までの予想の作品が大賞となったら、『そうだよね~』という感情になりますし、7~10位予想の作品も全然可能性があると思います。

それくらい、魅力的な作品たちに出会えた2か月間でした。

 

本屋大賞、どうもありがとう。発表を楽しみにしています。