ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

互いの存在のすべてをふたりで支えあう

凪良ゆうさんとは、今回が初対面です。K島氏さんがtwitterで感想ツイートだったか何だったかを呟いていたのがキッカケです。ちなみにK島氏さんとは書籍編集者の方(たぶん東京創元社)で、米澤穂信さんの担当?みたいです。

 

今回感想を書こうと思っているのは、「流浪の月」です。

 

あらすじを簡単に書こうかと思ったのですが、もう自分には何をどこまで言ったらいいか分からず、簡単に書けませんでした。なので作品の公式あらすじを貼り付けておきます。……公式あらすじもあえてぼやかして書いてる感じですね。

 

「あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。」

 

感想を一言で言うと、読んでよかった、です。一言で言えません。更紗と文の一言では言えない、なんなら言葉では言い表せられない関係性、これがいちばんの魅力なのですから。

 

桜庭一樹さんの「私の男」をはじめ、とても大きな括りでの「共依存関係」に何か思うところのある方は、ぜひ読んでみてください。読んで、私に感想を教えてください。

 

以下、ネタバレ前提で感想の詳細を書いていきますので、ご注意ください。

 

--------------------------------------------------

 

それぞれ生きづらさを抱えていた更紗と文が出会い、引き離され、そして今度は自らの意思と決断でそばにいることを決めた、この二人の関係性がたまらなく悲しく、そして愛おしい。言葉で表せるものでは到底なく、「更紗」と「文」、まさしくそう言うしかないです。

 

「わたしは文に恋をしていない。キスもしない。抱き合うことも望まない。けれど今まで身体をつないだ誰よりも、文と一緒にいたい。」

 

どんなに世間から言われようとも、自分たちの幸せを希求するために、そばに居続ける、居続けたいと願う、その決断をするまでの物語でした。

 

状況的にはなんとも言えないですが、二人の精神的には限りなくハッピーエンドで、読後感は幸せな気持ちになりました。

 

更紗は、とても強くてその分脆い人だと思いました。周りに何を言っても信じてもらえない、全く救いにならない善意しか貰えない状況の中で、自分を抑える方向に一旦進んでしまいます。文との再会によって本来の強さ、我儘さ、その分の脆さが取り戻されていく様は読んでいて気持ちがよかったです。

 

文は、「ちゃんとする」「みっともない」に囚われている一人だと思いました。「あのひとは蜘蛛を潰せない」の梨枝とちょっとだけ似ています。一人になっても母親の呪縛から抜け出すことができない。更紗と出会うことで、彼女を光り輝く世界、自分の自由の象徴と感じるのも必然なのでしょう。一旦離れたあと、掲示板をみて更紗が居るかもしれない街に引っ越し、店名に更紗の名前を使うのは、表現方法が違うだけで根本の衝動は更紗と同じなんだなぁと思いました。

 

あとは、梨花ちゃん。二人の間を取り持ち、そして二人の一番の理解者です。この子が居なければ、おそらく二人の中で完全に吹っ切れるところまではいかなかったのだろうと思います。「私の男」のように、離れるという選択をしていた可能性もありそうです。

 

亮くんのことは残念ながら最後まで理解できなかった。これは彩瀬まるさんの作品を読んだ時なんかも感じる違和感で、恐らくは私がこういう独占欲の塊で不安定、みたいな価値観を受け入れられてないからだと思うので、ここは仕方ないと思うことにしています。

 

もう少し理解者が居る優しい世界だったら…と思わなくはないですが、更紗と文、そして梨花、これで必要十分なのです。

 

「わたしたちは、もうそこにはいないので。」

「どこへ流れていこうと、ぼくはもう、ひとりではないのだから。」