ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

正しさなんて、すててしまえ

「流浪の月」、「わたしの美しい庭」と読んできて、私の中で完全に急上昇ランク1位にいる凪良ゆうさん。

 

「流浪の月」を読んだとき、衝撃を受けたとともに、多少の後悔がありました。1作目にこんなに刺さる作品を読んでしまうと、どうしても2作目以降のハードルが上がってしまい、1作目以外の印象が霞んでしまうからです。

 

ただ「わたしの美しい庭」を読んで、その後悔は不要だったと感じました。私の中のハードルを軽々と飛び越え、「流浪の月」と近しいテーマでありつつも、私の想像だにしていなかった所から刺してきました。

 

とはいえ、私の中で3作目にあたる「神さまのビオトープ」は過去作にもあたるので、さすがに…と思っていたら、私を串刺しにするような作品でした。完全に凪良ゆうにゾッコン状態になってしまったといっても過言ではありません。

 

この作品のテーマはやはり前2作とも近しく、凪良ゆうさんの根底にあるテーマなんだろうな、と感じます。

 

一言でいえば、「正しさなんて、すててしまえ」!!実に爽快です。人間の生きる目的とは、なるべく多くの幸せを感じることだと思っていますが、それを強く肯定してくれたような作品です。

 

作品には、世間一般的には「正しくない」人々が登場し、その人々を描くことでこのテーマを強調しています。ただそれは、わかりやすい「正しくなさ」に限った話ではありませんので、誰にとっても刺さりうる物語だと思います。

 

以下、作品のネタバレを含みます。

 

 

作品全体の主人公であるうる波の前に、事故死した夫である鹿野くんの幽霊が現れます。鹿野くんの幽霊と過ごしていきながら、様々な「正しくない」人々と出会い、時には助け、一緒に悩みながら、彼彼女らの選択を見届けます。

 

そういって最後にはやっぱり、幽霊である鹿野くんとの別れが来てしまうのかな…となるじゃないですか?そうならないのが、この作品が刺さった一番大きなところです。

 

幽霊である鹿野くんとうる波は、経験を経て、真剣にこれからのことを考えます。そうして、自分たちの「正しくなさ」を強く認識したうえで、自分たちの幸せのために、「正しくないこと」を選択するわけです。この力強さよ…!!

 

人間が幸せに生きていくために必要なことについて、この作品から読み取ったメッセージは大きく2つです。

 

1つ目は、自分の「正しくなさ」をしっかりと認識すること。自分がこの状況を「幸せ」と感じることが世間一般からしてどれだけ「正しくない」のかを把握することは、自分がこれから障害なく幸せを感じるため、そしてそれに伴って誰かに迷惑をかけないために、必須なのだと思います。

 

2つ目は、自分に嘘をつかないこと。うる波は幽霊の鹿野くんと住んでいることを、自分の「正しくなさ」を認識しているので積極的に明らかにしようとはしていませんが、嘘をついてまで隠そうとはしていません。それは自分に嘘をつきたくないからなのだと思います(嘘を言ってしまうことでそれが現実となり、鹿野くんが消えてしまう心配もしているのだと思われますが)。自分が感じたことを大切にして、生きていく。その中に自己矛盾があっても、それを肯定する力が必要なのだと思います。

 

以上です。まだ読んでいない「すみれ荘ファミリア」も楽しみです。それから、最近書き上げたらしい、地球に隕石が落ちて滅亡するお話は、それだけで非常にそそられます。