ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

この世に触れたくて仕方がないからこそ、この世から逃げたくて仕方がない

「さいはての家」は、彩瀬まるさんの短編集で、5章からなります。

 

郊外に建つ古い借家でかりそめの暮らしをする様々な人々が主人公となっており、章毎に期間も異なるため直接的なかかわりはなく、ゆるーくつながっている感じですね。

 

帯での引用にある通りで、この世に触れたくて仕方がないからこそ、この世から逃げたくて仕方がない人々のお話でした。特に「はねつき」「かざあな」がお気に入りですが、どれも心に残る作品たちでした。

 

以下、「はねつき」「かざあな」について、ネタバレを含みながら軽くコメントを残します。

 

 

「はねつき」

「あのひとは蜘蛛を~」と似た空気感があるな~と思ったら、初出が2015年なのでほぼ同時期の作品ということになるのでしょうか。個人的に一番お気に入りです。

 

つるちゃんが、はじめはネズミの処理をするのを嫌がっていたのに、途中から自分で処理をするようになります。これに、蜘蛛を潰せないあのお方と似た何かを感じていて、これにどんな意味があるのか少し考えていますが明確な答えは出ていないので、また改めて読み比べた方がよさそうです。今の所、つるちゃんの中での価値観の変化(受動から能動へ)、および再び独りになることを自覚した、などでしょうかね…。

 

あとは何といっても、ラストにかけての包丁の描写です、これはつるちゃんの中の葛藤を見事に表現していると思います(それを伝達する私の表現力は不足しています)。ラストは濁しつつ、後の章でさらっとその後を匂わせる描写があるのもいいですね。

 

「かざあな」

これは、「くちなし」や「森があふれる」と似たコンセプトだと感じました。ファンタジーな要素が漂いつつ、根幹は主人公の心の動きで描いている。この幻想的な世界観で現実のことを描くのが本当にすごいなぁと思います。

 

最後に、大家さんの名言で締めましょう。

「逃げる、引き返すって判断は、時に現状維持の何倍も勇気が要るんだ。そこで逃げられないで、死んじゃう人もいる。ちゃんと逃げて生き延びた自分を、褒めなよ、少しは。」

この世に触れたくて仕方がないからこそ、この世から逃げたくて仕方がない人々のお話でした。