ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

アバンギャルドな老人とゆとりセンシティブな若者、だけじゃないという話

「すみれ荘ファミリア」は、私にとって凪良さん4作目であり、現状の非BLとしては最後の作品です。

 

勿体ない気持ちが先行していてなかなか読まずにいましたが、「流浪の月」が見事に本屋大賞を受賞され、その勢い余って読んでしまいました。

 

おんぼろ下宿すみれ荘の管理人をしている一悟は、その下宿人たちと家族のように暮らしていました。そこに新しい入居者、芥がやってきて……というお話です。

 

芯となるテーマはやっぱり「生きづらさ」なんだけど、どちらかというとそれが社会との折り合いであった他作品と少し違い、他者との折り合いに主眼が置かれていたように思います。

 

今回は、自分の中の折り合いのつかなさがあまり良くない方向で実体化してしまった人が多く、結果として絶妙に足を引っ張り合うような人々の話でした。

 

下宿って住んだことはないけれど、家族でない他人と四六時中共にするような経験はあるので、ぼんやりとイメージはあります。「めぞん一刻」でも、チラッとこのテーマに触れていた部分があったよなと記憶しています。私も凪良さんと同じで引き算スタイルを好んでいる節があるなぁと思いました。

 

そんなバッドエンドな世の中だけど、バッドエンドなままでもハッピーに生きていくこともできると思うよ、というメッセージを受け取りました。この辺りは、「神さまのビオトープ」に近いように思います。

 

以下、ネタバレを含んだ追記です。

 

 

 

前半2人は、割と世俗的で辟易とする部分もありましたが、自分なりの折り合いと納得を経て生きていく様は尊敬できる2人です。

 

後半は、青子の狂気もそうですが、一悟のお人好し感が印象に残りました。それが青子の狂気と絶妙に噛み合ってしまうのですね……。

 

「わたしの美しい庭」の前身のような、荒削りでエグみのある味わい深い作品でした。

 

表紙も、物語の暗喩のようでいい味を出しています。ハーブティーを飲む一悟……。

 

さて、おそらく次回作はツイッターで言っていた隕石が落ちてくる話だと思うので、楽しみに待ちます。BL作品は個人的な嗜好としては読む気が一切起きないけれど、一個くらい読んでみてもいいのかもしれない。