ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

「食べるってすごい。生きたくなっちゃう」

「まだ温かい鍋を抱いておやすみ」は、彩瀬まるさんの最新作です。

 

大きなテーマは、「食べるって、すごい」ことだと思います。ここ最近の深めで複雑なテーマを引き継ぐ部分はありつつも、食べるということから人間が得るエネルギーの偉大さで単純化していける部分はあるぞ、ということを感じました。すべてに対して真摯に取り組むには、世の中は複雑すぎる。食べものから力をもらってこれからも生きていきましょう。

 

以下、各短編ごとに思いっきりネタバレです。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

①ひと匙のはばたき

仄かな百合でした(作者自認)。そしてファンタジーでした。清水さんはこれまで鳥に依存していたけれど、これからは自立しながらも、乃嶋さんと支え合っていけたら理想的な関係だなぁと思いました。こういうの、羨ましい。まずはオサレダイニングバーの常連にならないと…。そうじゃないですね。そして、煮込みがどれも美味しそう。

 

②かなしい食べもの

このパンは、確かにかなしい食べものだけれど、確かに灯を支えてくれた食べものなのだ。それをきちんと分かって、自分の意思を添えて、しっかり言葉で伝えてくれる透くんがイケメンすぎる…。そして最後に、一歩踏み出す。ちょっと背伸びしてるのも、いい。そして、枝豆チーズパンが美味しそう。

 

③ミックスミックスピザ

早百合は、「ちゃんとする」に囚われて、そして急に限界が来てそれを手放してしまった。妻そして母親、そして社会人という役割を演じるのに精一杯で…という感じ。ラブホで食べるピザは、「ちゃんとする」の対極にある食べものなのだと思う。ピザそのものに加えて、その状態が。それで思い出す、晴仁さんとの思い出…。ここで思い出すのには理由があると思っていて、食事そのものだけではなく、環境や相手も含めての経験がとても大切、ということを改めて気づくための手段だったのではないかなぁと思います。そして最後に選び取った経験は…。そして、葛切りが美味しそう。

 

④ポタージュスープの海を越えて

結構刺さった。私も、スーパーの買い物では「(私の誤った知識のうえで)いかにちゃんとした食生活になるか」を考えて、アッチコッチ迷いながら進む。私も、母親の好きな食べものは?と聞かれて自信を持って答えられる気がしない。とろーんとした無自覚の中にいる人しか作れない、なんでもねがいがかなうけん、私も欲しい。一番ファンタジー味が強い作品でした。そして、薬味たっぷりの鰹のたたきが美味しそう。

 

⑤シュークリームタワーで待ち合わせ

これも結構刺さった。今の時代は、結婚に対する考え方をはじめとして、色々な価値観を、それぞれがそれぞれに対して認め合う時代になっていると思うけど、果たしてそれが理解しあえる関係かというと、なかなか難しいのだと思う。ただ、それだけで離れてしまうのは悲しくて、確かに支えあっていける部分はあるのだ、という祈りの物語だったと思います。私も、シュークリームタワーで待ち合わせしたい。あとは、食べものが人に与えるエネルギーって、すごい。「生きたくなっちゃう」は凄い台詞…!そして、鶏ささみと大根おろしと生姜のスープが美味しそう。

 

⑥大きな鍋の歌

仄かなBLでした(作者自認)。野栄の「人間関係をマジでバカにしてるっているか…」という台詞に後ろから刺された気分。私も、他人から見た自身の価値を小さいだろうということを言い訳にして、人間関係を蔑ろにしがちな部分がある…。もっと気楽に、もっとご縁を大切に、もっと他人に興味を持って生きましょう。そして、鶏肉とかぶのシチューが美味しそう。