ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

文明が衰退した世界をゆく旅人

人ノ町は、完全に表紙買いです。小説を表紙買いしてもあんまりいいことないんですけどね…。

 

とはいえ、この人ノ町は、読んで良かったです。これをSFと呼んでいいのか分からないけど、SFを久々に読みました。

 

ミステリー要素もありながらだったので、段々と明らかになってくる後半でイメージが変わりました。メリハリがすごくついていて良かったです。

 

以下、ネタバレ有りで章ごとに少しみて行こうかと思います。

 

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【風ノ町】

導入の章でした。こんな感じで進めて行きますよ〜みたいな。独特の描写でやや戸惑いましたが、すぐに慣れました。

「風に吹かれる」とは、中々粋な表現だなと思いました。

 

【犬ノ町】

犬や獣に関して非常に興味深い見解を得ることができました。

獣の行動に人間的な意味を求めるのは勝手な擬人法であることや、人の愛着を得た獣が犬なのだということなど。一理あるなぁと思う部分が多かったです。

これに限らずこの小説は全般に、世界に対して面白い解釈をしてるなぁと思います。

 

【日ノ町】

この章の旅人が、やたら勘が鋭くて、旅人って1人じゃないのかもな、とうっすら思い始めました。

そして融合炉が出てくるとはね…!技術の退廃が進むようなことがあればこういうこともあるのかな。

表紙裏あらすじでミステリー部分を推していたのは、今我々が現実で生きている世界の延長線上にあるという展開なのかな?と頓珍漢なことを考えていました。

 

【北ノ町】

だいぶ衝撃的な章でした。文庫化にあたっての書き下ろしみたいですけど、この章があるとないで、石ノ町で受ける印象がだいぶ変わってきてしまうと思うんだけど…。

ラストは謎を程よく残したまま、絶妙な書きっぷりですね。石ノ町を読んだ後に読み返すとあぁ〜ってなりました。「これが死だ。」の余韻と言ったら…。

 

【石ノ町】

いわゆるネタバラシの章でした。前章で死んだはずの旅人が当然のように居るのでやはり1個体ではないなぁと思っていましたが、まさか不死の民族だったとは。これまでの微妙な違和感を解消する、見事な伏線回収でした。石積みの哀愁がすごい…。

現実でも、時間スケールは果てしないはずだけど、それでもいつか抗いようのない突然の大量死があるだろうことを考えると、現実もこうなる可能性が十分にあるのだろうな、と思いました。特に、ネット世界が維持できなくなるほどの規模だとすると、失われるものは膨大ですよね…。

北ノ町がない前提で考えると、ネタバラシが唐突すぎる印象を受けるんじゃないかな…?と思った次第です。

 

【王ノ町】

これからの話でしたね。不死の設定詳細は考察できてませんが、たぶん、肉体は衰えないだけで、外傷とか、精神から来るものは別って感じですよね。

眼の件はそういうこととして、旅人がやたら年を取ったようになっているのは、肉体的な側面ではなく精神的な側面なのではないかと思います。石ノ町でも似たようなことが語られていましたが。

旅人は、世界的に有名となるほど世界を回りきってしまった。だから、精神的老化を防ぐ方法である「新しいこと」が減ってきて、老化が始まっている。最期に、建国の後押しをするような行動をしたのは、まさしく世界に「新しいこと」が生まれることを期待してなんじゃないかな、と思いました。

 

これからも旅人に良き出会いがありますように。