山本文緒さんの『自転しながら公転する』を読みました。
山本文緒さんは、アカペラに続いて2作目です。こちらは最新作で、彩瀬さんと凪良さんがどちらもオススメしていたので手に取りました。
登場人物への全面的な共感はできないんですけど、生活していく上での葛藤だったりとか、終盤のおみやの口上だったりとか、本来言語化できない部分を見事に表現していてすごいなぁと思いました。
以下はネタバレありです。
---------------------
冒頭の都の寿司屋への当たりはちょっと置いてかれたけど、よく考えたらまぁ分からんでもないというか、私が妬んでるんだなということに気付きました。
こう書くと私が普段、色々我慢をしてるみたいな印象になってしまうな…そうではないのです。
取り返しのつかないというか、状況を一変させるような台詞を吐いたり行動をしてみたら、どういう未来になるのかな、と想像してみることがありますね。私はあくまで想像に留まりますが、都は迷いながらも、最終的には自分の伝えたいことをきちんと伝える。
出していく弊害は勿論ありますが、出していかないと変わらないものが多すぎる。私は都を妬ましいレベルで羨ましく感じているんだと思います。都の人生はこの行動力(?)のお蔭で、最後まで変化に富んだ物だったように感じました。
特に終盤の旅行での貫一とのやり取りのところ。ここに本作の魅力が一番詰まってると思う。
p368
『その可能性を自分からゼロにしようとは思ってないよ』
p371
『私は、一緒に暮らしたいって言ったの。このままじゃなんの変化もないし、それじゃ悩みの内容だって変わらない。結果がどうあれ前へ進みたくて提案してるんじゃん。不安や悩みを失くしたいんじゃなくて、種類を変えたくて言ってるんだよ!』
プロローグとエピローグのトリックは、正直に言ってしまえば余りにも既視感がありすぎて、プロローグで人名がほぼ出てこない時点で大体わかってしまいました…。慣れって恐ろしいね。その分、純粋に都のお話に専念できた感があって良かったです。
エピローグの都の台詞もお気に入り。本編から時がだいぶ経ってるからこそ出てくる台詞なのだろうという点で、やっぱり必要なエピローグだったかな。
『別にそんなに幸せになろうとしなくてもいいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ』
私の解釈する「幸せ」とは意味合いが違うように捉えていますが、主張していることは本当にその通り。
私の言葉で言えば、自分の描いた「理想」を100%、少しの遊びも許さない形で実現するのが「幸せ」だと考えると生きづらくなる。思い通りにならないことをうまく取り込んだ「幸せ」の形を追い求めていく方が、少なくとも自分には合ってる。つまり、「幸せ」を固定化するな、ということと捉えました。