ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

コーシローと光司郎

伊吹有喜さんの「犬がいた季節」を読みました。

 

本屋大賞ノミネート9作目!伊吹さんとは完全に初対面です。

 

6話からなる短編集ですが、1話ごとに「切ね~~~~」ともだえるような作品集でした。非常にセンチメンタルな気分にさせてくれる素敵な小説でした。

 

同じく本屋大賞ノミネートの「お探し物は図書館まで」が、社会人に焦点が当たった短編集だったのと対照的に、いずれも基本は高校生に焦点が当たった短編集です。

 

コーシロー(犬)語りがあるのも、魅力の一つでした。また、各話で時代性がしっかりと切り取られており、時代とともに変わりゆく高校生というのも印象的でした。切なさを加速させる演出です…。

 

総じて、久々に最高の青春小説を読んだ気分です。

以下、ネタバレありで書いていきます。青春小説に対しては基本語彙力ないので、そこはご了承ください。

 

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【めぐる潮の音】

一番切なくて、一番青春してるなと個人的に思うお話です。好き。また、最終話にかけてもゆっくりとつながっていく軸のお話になります。最近多いですけど、短編集でゆる~くつながっていく形式、好きです。

 

優花と光司郎の距離感、いい。この時代を代表する恋愛様式美って感じで、「耳をすませば」と雰囲気似てるな~と思ったら、時代が同じですね…。さすが、時代性を反映しています。

 

一番好きなシーンは、やっぱり紙飛行機のシーンですね…。めちゃくちゃ青春してる…。

 

最期の光司郎の選択の青臭さも、いい。めちゃくちゃ時代性を感じるなぁ。

 

【セナと走った日】

これも好き(2回目)。独特な趣味を語り合える同年代が居る嬉しさと楽しさ、高校生らしいテンション感、いいですね。

 

鈴鹿サーキットまでチャリンコで行こうとして、途中でバテるやつ、ザ・青春ですわ、はい。あだ名を聞いておいて、じゃあそのままあだ名で呼び合うとはならない、このもどかしさ、いい。

 

そして、四六時中一緒にいることで生まれる2人だけの共通言語「たまご」。旅行班でもあるあるの概念ですね。

 

最期のあだ名、いい。呼び方に気持ちが込められている演出、大好きなんです。コーシロー語りの中でアンサーが補完されているのも、いい。

 

【明日の行方】

これは別の意味で切なすぎるお話でした。阪神淡路大震災地下鉄サリン事件、当時の出来事によって良くも悪くも生き方が変わっていく。私たちも、いまコロナというものを経験していく中で、生き方が変わってきていると思います。社会人はさておき、学生は非常に影響を受けているのだろうと思います。

 

お祖母ちゃんの幸せを願って。

 

【スカーレットの夏】

詩乃の歪みが非常に切ないお話でした…。鷲尾とかかわっていくことで、よりコンプレックスを拗らせていくぅ…。でも、鷲尾のおかげで、一歩を踏み出した。

 

鷲尾はただただイケメンだったな…。

『なんでもしてやるよ、青山」

こんなんずるい…。

 

【永遠にする方法】

第1話のチャリンコの子、ここで来たか!と思いました。はじめは、コーシローを元々飼っていたおうちの子なのかな、と思いましたが、そういうわけではなかったようです。

 

優花がまさか先生になっているとは!これは深読みせざるを得ませんでしたが、なにやら複雑な事情があるようで…。これはある程度客観的にしか語られませんが。

 

大輔の切ない片(?)思いも、高校生っぽくてよかったです。

 

それにしても私には理解できない大人が多すぎた。悲しいけれど、こういう現実とも向き合っていかねばね。

 

なにより、「However」を「永遠にする方法」と訳し、その後の優花との対話の中で自分にその意味が返ってきて、おじいちゃんのやりたかったことを叶えてあげる、こんな素敵だけど切ないお話ないですよ…牧場の絵を描き始めたとき、鳥肌立ちました。

 

そして、わかってたけどコーシローの最期は泣く。ずるすぎる。

 

【犬がいた季節】

これはオールスター感謝祭。各話の登場人物のその後がちりばめられています。

 

いや、光司郎くん、30年越しの伏線回収はやめてくれ…。紙飛行機の少女を描くのはズルすぎますって…。愛が重すぎて、だったらもっと早くそうなってろよ!と突っ込みたくはなりましたが、私は人のことを言えないので、光司郎を逆に尊敬します。

 

【まとめ】

最期にふと思い立って確認したら、粋な演出を発見して号泣しました…。既読の方で、まだ表紙カバーを外していない方は、いますぐ外してください。何とは言いません。