ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

城塚翡翠の人間味について

相沢沙呼さんの個人的2作目、そして城塚翡翠シリーズ(?)2作目である『invert 城塚翡翠倒叙集』を読みました。

 

端的に言って、最高でした。

シリーズ1作目であれだけのどんでん返しが行われた後だというのにも関わらず、非常に自然な流れの2作目となっており、私が個人的に感じた魅力の部分もしっかりと引き継いでくれていました。かつ、ミステリという側面では、1作目とはまた異なる独特の楽しさがありつつ、非常にエンタメ的な要素も満載で、大満足の1作でした。

 

invertは、あらすじでさえmedium(1作目)のネタバレとなり得るので、なにはともあれまずはmediumを読んでください。そこで私のように城塚翡翠の魅力に取りつかれた方は、invertもお手に取り下さい。

 

では、以下は思いっきりネタバレして感想というか魅力を書きなぐります。

 

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【魅力】

invertで私が感じた魅力は大きく分類すると2つです。「探偵の推理を推理すること」と「城塚翡翠の人間味」です。

 

①探偵の推理を推理すること

今回のミステリ的側面の一番の特徴であり魅力です。mediumの壮大などんでん返しにより、翡翠には霊媒の力はないことは読者の皆さん分かっている情報になりますが、そのうえで読んでいくと、翡翠のあざとすぎる行動一つ一つに何かしらの意味があるように思えてならないわけです。今作はそれを考察する楽しさにあふれていました。

 

今回は倒叙集ということで、犯人目線の語りが中心、かつ犯行シーンからお話が始まります。このため1作目同様、読者目線だと犯人はバレバレなわけです。そのため、翡翠がどういった論理で犯人を特定し、追い詰めるのか、を読者は推理することになります。まさしく、探偵の推理を推理するわけですが、これが楽しくて楽しくて。しかもこの論理は何段階にも積み重なっていて、一筋縄ではいきませんでした。解決編の直前ではご丁寧に翡翠が、それぞれの段階で躓いている読者たちにそれぞれのヒントをほのめかしてくれます。

 

総じて今回はこのミステリ的側面が、非常にエンタメ的に最高に仕上がっていました。コンフィデンスマンJPを思い出しました(あそこまでエンタメに振り切ってはいないけども)。倒叙集だけあって、明らかに古畑任三郎を意識しているであろうシーンや台詞がちりばめられていましたし。コナンの台詞みたいなシーンもありましたね。すごくドラマになりそうだな~と思いながら読んでましたが、最終章の展開を考えると難しいのかな。できないことはないだろうけど。

『真ちゃん。相手をもっとも苛立たせる言葉は、あわわ、ではなく、はわわ。あらら、ではなく、あれれ、です――』

 

②城塚翡翠の人間味

これこそが私が思う本シリーズ一番の魅力であり、柱となる謎なのです。1作目mediumでの解釈はそちらの感想に書いています。 

 

「城塚翡翠は何者か?」というのが本シリーズの根底を流れる最大の謎なのだと思うわけです。1作目では最後のどんでん返しによって、それまで秘匿されていた城塚翡翠の現在の立ち位置が明らかになることで、驚きを与えてくれました。それだけではなく、非常に人間味のある描写が添えられることで、設定のために動かされているキャラクターではない、城塚翡翠の息遣いが感じられて、そこが魅力的であったわけです。

本作でも、各事件の犯人との対峙を通じて、城塚翡翠の本質・信念のしっぽが見え隠れするわけです。真ちゃんの語りを通じて特に、城塚翡翠はなぜ探偵をやっているのか、どういった過去を背負っているのか、に想像を膨らませるのがとても楽しかったです。

 

かといって、城塚翡翠は決して分かりやすい人間ではありません。どこまでが計算のうちで、どこからが本心なのか…。このミステリアスな部分がミステリアスであるからこそ、より魅力的に映るのだと思います。

 

この「城塚翡翠の息遣いを読者に感じさせること」と「ミステリアスな部分を城塚翡翠の魅力として維持すること」の両立は容易ではありません。これをやってのける相沢さんは天才だと思いました。

 

そういった意味でも、翡翠の語りがないのは、私にとって非常に有難いことです。どうしても語り手になってしまうと、底が見えてしまうというか、それ以上を感じなくなってしまうんですよね(例外:メリキャット)。

 

【気になった点?】

相沢さんのtwitterをみると、今作をイマイチだと評する人もいるみたいでした。全体を振り返ってみて、こういう所が気になったのかな、って所を考察してみました。

 

①ミステリ的にmediumとは方向性が異なる

mediumのミステリ的(というよりどんでん返し?)側面をアイデンティティーだと捉えていて、本作にも同じものを期待した方がいらっしゃるのかもしれません。mediumは、事件は短編で解決していく形式であったものの、最後の章では文字通り全ての事件の論理がひっくり返るようなどんでん返しぶりでした。作品全体が崩れて再構成されていく様は圧巻でしたので、本作も最後の章で前半の章も含めたひっくり返しを期待した部分があったのかもです。でも、mediumとは読者状況的にもかなり異なっているので、当然楽しませ方も変わってきますし、方向性が違うだけだと思っています。

 

②城塚翡翠は何者か

先ほど魅力で挙げた要素なのですが、本作では最終的に、翡翠のミステリアスさが強調され、真ちゃんが提起した城塚翡翠の謎は何も明かされない終わり方でした。ここを期待された方もいらっしゃったのかもしれません。

私個人としては、それだけ今後も続けていくシリーズになる、つもりである、ということが感じられてプラス要素でした。これって、コナンでいう所の黒の組織なんですよね。黒の組織との物語が進むのは非常に盛り上がるけど、毎回やっていたら、すぐにシリーズが終わってしまいます。これくらいゆっくり、じわじわと明らかになっていく方が、長く楽しめるじゃないですか。なにより、翡翠はミステリアスさこそが魅力なのですから、最後のその時まで、ミステリアス要素はあってほしいと思います。

 

【まとめ】

後半は何が書きたかったか自分でも不明ですが、とにかく、非常に大満足の1作でした。これからもいろんな城塚翡翠を我々読者に見せてほしいです。いつでもいいので、待ってます!!!