瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』を読みました。
瀬尾さんとは今回が初対面です。本作は本屋大賞受賞作なので知っていて、かなり前から読みたいと思っていた作品でした。
いざ読み始めてみると、手が止まらない止まらない。それなりに厚めの本でしたが、一日で駆け抜けてしまいました。
さすが本屋大賞です。やっぱり本屋大賞は偉大なので、過去受賞作も今後コンプしていきたいなぁ。
本作は、名字が3回、家族形態が7回も変わった優子という女の子のお話なのですが、書き出しが特徴的です。
困った。全然不幸ではないのだ。
状況のあらすじだけみると重いテーマの作品のように構えがちですが、本題は家族形態が変わったことそのものではなく、優子と周囲との心の通わせ合いに主眼が置かれています。思ったよりは重くなく、文体も軽快で、非常に読みやすかったです。
テーマは、家族のありかたについて。正確にいえば、人と人との関係性のありかたについて。こないだ感想を書いた『あことバンビ』や、『違国日記』と通ずるところがあると勝手に感じました。
では、以下に感想をつらつらと。
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登場人物(主に優子の親)が多いので、登場人物ごとに見ていこうかな。
【水戸さん(お父さん)】
何も間違ったことはしてないと思うけど、優子に選ばせるのかどうかは悩みどころよね〜〜。梨花の主張も最大限尊重したってことなんだろうけども。作中でも言及されていたけれど、選択の自由を与えられるということって、責任を負わされることでもあるのよね。子どものやりたいようにやらせる、というのも考えものなのか…と思いました。
でも、最期まで変わらない優子への愛情は、すごいなと思いました。
そして何より、海外出張は絶対したくないな、と思いました(取らぬ狸の…)。
【梨花さん】
この人の愛も深いなぁ。一所に留まれない性格でありながら、優子を引き取るという覚悟。ピアノの夢を実現させ、自分の病気が発覚してから他の人へ優子を託すこの行動力。感情論理は共感しにくい部分はあるけれど、梨花さんのなかで、優子の存在がどれほど大きいものだったのかは、ひしひしと伝わってきました。
森宮さんの所から姿を消したくだりでは流石に不穏展開かと思ったけれど、ここにも梨花さんなりの愛が変わらず根底にあったのですよね…。
【泉ヶ岳さん】
この人の愛も深いのだけれど、どっちかというと梨花への愛が深いですよねぇ…。
梨花さんと泉ヶ岳さんの経緯というのは詳しく語られることはなかったけれど、とてもとても深いものを感じました。
もちろん優子への愛も深いのだということを、早瀬君と挨拶に行った際に打ち明けていたことから感じました。梨花さん同様、泉ヶ岳さんなりの愛の形です。
【森宮さん】
森宮さんすき〜
必死に"父親兼母親"になろうとしているけれど、ちょっとずれている節もあって、空回ってる部分もある。でも、だからこそ優子にはその想いはしっかり伝わっていて、森宮さんと優子、2人で家族となれているのだ、と感じました。
森宮さんは最期まで気にしていたけれど、家族になるのに、親子になるのに、"父親らしさ"とか"母親らしさ"とかって、いらないんじゃないかな。親子といっても、1人の人間と人間じゃないですか。だから友達や恋人との関係性と同じく、個別の関係性として、お互いに想いあえる関係かどうか、これに尽きるんじゃないかなと思います。
つまり、森宮さんと優子、この2人の関係性というのは名前のつけられるものではないし、名前に縛られるようなものじゃない。
『まさか。最後だからじゃないよ。森宮さんだけでしょ。ずっと変わらず父親でいてくれたのは。私が旅立つ場所も、この先戻れる場所も森宮さんのところしかないよ。』
呼び名に想いが込められている描写がとても好きですが、「お父さん」ではなく「森宮さん」という変わらない呼び方も、2人の特別で大切な関係性を象徴していて、すてきです。
【優子】
向井先生の指摘通り、本当にたくさんの愛情をたくさんの親から注がれているなぁ、と思いました。それは一般的な親から注がれるものとは違うかもしれないけれど。
いちばん好きなくだりは、森宮さんとピアノの件で気まずくなってから、周囲に相談しながらも、最終的には二人で中島みゆきの歌を延々と歌って昇華させるやつ。
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読み終わってからしばらく、多幸感がすごかったです。瀬尾さんの他作品も漁りたい。