ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

宮田と江永

武田綾乃さんの『愛されなくても別に』を読みました。

 

吉川英治文学新人賞を受賞されているということで目が留まりました。この文学賞の存在を今回初めて知りました。

 

大学生が"普通"や"不幸"と向き合っていくお話です。家族というか親子関係が大きなテーマになっています。

 

個人的には共感ポイントは少なかったものの、描かれている生きづらさはとても現代的で、リアリティを感じました。

 

人間が生きていくうえで必要なコミュニティのなかでも、(単に血の繋がりや戸籍上の関係を指す)家族が第一コミュニティである必要はないよね。むしろ、第一コミュニティをこそ"家族"と呼称すべきだよね、そんな祈りを感じました。

 

では以下はネタバレありで書きます。

 

 

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人物ごとに。

 

【宮田】

長い間、母親との関係性に悩み苦しんだ子です。江永との対話の中でも象徴的に出てきますが、いくら親子といっても、その前に人と人なわけです。親子というのも人間関係の一つなんです。だから、友達や恋人関係と同じように、色々な形があって然るべきだし、その中には良い関係性も悪い関係性もある。

 

でも、親子・家族というものを無条件に善いものとする価値観があるわけで、それに宮田は苦しんでいたのだと思います。

 

『私ね、多分、このままだとお母さんを殺しちゃう』

宮田を象徴するような台詞だと思っています。特にまだこの段階では圧倒的不幸中毒な印象…。

 

芳香剤のくだりは共感性高い。何か分かりやすいものを祈りの象徴とするやつ。自我を保つためには必須の感情である一方で、なんとも脆い感情です。橋本紡さんの『流れ星が消えないうちに』でもこの感情でてくる。たしか彩瀬まるさんの『あのひとは蜘蛛をつぶせない』にもあったと思う。

 

不幸中毒な感じは、私個人としては共感性が低かったです。"不幸"って主観的感情ですから、他人と客観的事実を以って比べるものでは決してないと思うんだよな…。その不幸がありふれているからといって、不幸として捉えてはダメなんておかしい。

 

そうは言いつつ、知らないうちに私も不幸中毒的な感情が湧いてくることはあるので、そういった意味ではリアリティが高い描写でした。

 

最期には宮田はささやかな"幸福"を感じる。息ができる場所とコミュニティを獲得して、宮田としての価値観形成の第一歩を踏み出したような終わり方。この先どうなるかなんてわからないけど、それはそれとして、いまの"幸福"はしっかり"幸福"として受け取れる感情になってくれて、私は嬉しいです。

 

【江永】

どちらかというと私は江永の価値観に近いのかな〜。あくまで相対的に、だけど。

 

この子も血の繋がりに苦しめられている。宮田に対しては大人ぶった感じを出してきているけれど、まだまだ自分の中では消化しきれてない感がある。

 

でも終盤にかけて、その自分の感情を抱えたまま生きていこうとする姿勢が感じられて、とても嬉しいです(…私は誰目線でこれを言っているの?)。

 

宮田との出会い方というか運命については、ささいなものですけれど、だからこそ私は少し救われた気持ちになりました。こんなささいなことでも、場所やタイミング、その時の感情によって、あらゆる繋がりが運命たりえる。これは、拗らせて運命論者になりつつある私を支えてくれます。

 

【まとめ】

宮田と江永が、なるべく沢山の"幸福"を掴み取れる未来を願ってやみません。

 

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それにしても、オビの「共感度120%で大反響!」はやめてくれ…。そう書いてあって共感度120%だった試しがないので…私が平均から外れているのかもしれないけれど。