ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

母の祈り、娘の祈り

町田そのこさんの『星を掬う』を読みました。

 

本屋大賞ノミネート作が発表されたので、今年も爆買いしてきました。『正欲』だけまだ手に入っていないのですが、発表までには全作揃えて読みたいなぁと思っています。

 

既読作品が3作入っていたので、本作が4冊目です。本屋大賞ノミネート作だと知って読むのは1冊目ですね。

 

町田そのこさんとは、昨年の本屋大賞で出会いました。『52ヘルツのクジラたち』は見事本屋大賞を獲得され、2年連続ノミネートとなっています。私はほかに、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を読んで、これが非常に好きな作品となりました。

 

さて、本作は、母娘関係が主題となっており、細かくは記載しませんが具体的で非常に重たいテーマを扱っています。

 

正直、読んでいて非常に悲しくなる場面も多くありました。ただ、そこはさすがの町田さん、最期にかけての掬い方が絶妙でした。終盤は、自分でもよくわからない謎の涙が出てきました。

 

『52ヘルツのクジラたち』とは扱うテーマが少し異なるものの、精神的続編のように感じました。

 

では、以下ネタバレありで書きます。

 

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久々に人物ごとにまとめようかな。

 

■ 千鶴

前半は圧倒的な不幸中毒者で、『愛されなくても別に』の宮田と共通するところが多いように感じました(それにしてもほぼほぼ弥一のせいな気はするけれど)。

 

後半はゆっくりと不幸中毒に溺れる自分を自分自身で掬い上げていきます。美保を諭すシーンが一つのゴールだよねぇ。『わたしの不幸も、あのひとのせいなんかじゃない』って、あたりまえだけど、油断するとつい目をつぶってしまう側面ですよね。自分の幸せは、自分で規定していけ精神、私好みです。

 

弥一とのドンパチ以後の聖子とのやり取りで、本当に一気に救い上げてもらった気分です。このあたりも『52ヘルツ~』との共通点かな。できる子のくだりとか、最後のあの夏の続きをしようだとかの辺り、謎の涙がこぼれたポイントです。

 

■ 聖子

『夜空に泳ぐ~』の『溺れるスイミー』と似たような境遇ですね。大切な人(聖子のお母さんだったり、娘である千鶴)から求められている振舞いになんとか応えたい、かといって気づいてしまった自分自身の欲求に抗いきることもできない。家政婦の仕事を通じて、自分と同じような人を見つけて救われたような気持になっても、やっぱり完全に同じなんてことはなくて、自分を肯定しきれなかった。千鶴と再会できたことによる幸福は確かにあったと思います。

 

あとは、子どもたちに面倒を見てほしくないという感情。これは今回初めて触れる価値観かもしれませんが、非常に生々しく私の心にも刺さりました。こういう価値観は、なるべく事前に明文化しておいたり、話し合っておいたりした方がいいんだろうな、と思いました。

 

■ 恵真

美晴ポジだと思っている。この人も重い過去を背負ってきていますが、千鶴とは対照的に、非常に前向き(前を向き続けようという意思がある)です。千鶴の妹になってくれて本当よかったです。

 

■ 彩子&美保

この二人はどうすれば正解だったのかわからない…というか正解なんてないか…。とにかく、共通の経験を経て、二人にとって最適な距離感がつかめてよかったです。登場初期の美保ちゃんには辟易としましたが、これも若気の至りかと思えば、私も思い当たる節がないこともないので、そういう青臭さもあるか、という気持ちです。

 

■ 弥一&岡崎

町田そのこ作品で、毎回どうしても気になってしまうのが、悪役の悪役徹底っぷりです。本作でも、この二人が頭から終わりまで悪役(というか完全なる犯罪者)として徹底的に救いのないように描かれています。

ただ、悪役、たとえ犯罪者であっても、人間です。その人の信念・論理があって行動しているわけで、ここがもう少し見えてくるといいなぁと思っています。

 

■ 類似テーマを扱う他作品

母娘の関係を描いた作品として、『かか』と『愛されなくても別に』を最近読んでいて、これらの知識をフル活用したことで、深く読めた節があります。本作を読んで、上記2作を読んでいない方がいましたら、良ければ読んでみてください。私個人としては『かか』がダントツで好きです。

 

本屋大賞はどうか?

本作は、終盤に一気に掬い上げてもらって昇華するようなお話です。ひるがえせば、中盤まで非常に重々しく、暗い雰囲気が続きます。そして、大枠や展開が前年の本屋大賞である『52ヘルツ~』とよく似ています。更には、前年の本屋大賞を受賞している作者であり、今年についてはそれがディスアドバンテージになってしまうと思われます(昨年の凪良さんのように…)。

以上より、主に「重すぎる…」という理由で、大賞受賞はなかなか厳しいのではないかなぁと思いました。(まだ全部読んでいないのにこいつは何を言っているんでしょうね)

 

■ まとめ

『52ヘルツ~』に続き、終盤の掬い上げ方が見事で、母娘関係に対する祈りの物語として、非常に印象的な作品でした。

今後も、町田さんの作品は読み漁りたいです。