一穂ミチさんの『スモールワールズ』を読みました。
本屋大賞ノミネート作、7冊目!今年はアドバンテージもあったので順調すぎます。
本作は、ノミネート作が発表される前から話題になっていたので気にはなっていました。なのでノミネート作の中では一番読むのを楽しみにしていた作品でもあります(楽しみにするだけの前情報が入ってきていた)。
さて、本作は約50ページの短編6作からなる作品ですが、どの作品も短編とは思えない濃厚さでした。中編くらいの読後感です。非常に鮮やかな比喩表現と、滑らかな没入感(滑らかな没入感とは??)、非常に私好みの物語ばかりでした。
内容やテーマが同じというわけではないのですけれど、私の中では、町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』と似たような読書体験および読後感でした。
一番のお気に入りは、『ネオンテトラ』です。比喩表現が一番鮮やかです。
では、以下ネタバレありで書いていきます。
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■ ネオンテトラ
最高です、ええ。ネオンテトラの比喩構造に気づいたとき、文字通り鳥肌がたちました。落としどころがすごすぎる。
あとは、どこがは書きたくないのですが、美和が割とわたしなんですよね…。どこがは書きたくないのですが…。私が辿り着きうる道筋のひとつをみているようで、ぞっとしています。
■ 魔王の帰還
これもタイトル回収が素晴らしい。魔王が鉄二のもとに現れて、そして勇のもとへ帰還していく物語。
これは何より姉ちゃんのキャラ立ちが素晴らしい。冒頭からフルパワーで笑ってしまった。竹宮ゆゆこ作品に出てきそう。
■ ピクニック
SBSというものの存在を知らなかったのですが、確かに幼児の事故は取り扱いが難しそうですね、と他人事ながら思いました。
本作はちょっとホラー寄りというか、本当にあった怖い話に出てきそうな類の作品でした(本当にあった怖い話ってほぼ見たことないけど…)。
■ 花うた
書簡形式の作品、結構すきです。特に本作は、手紙でなければ、この二人はこの境地にたどり着けていないでしょうから。
秋生の最期の物語、染みるなぁ…。
■ 愛を適量
これも結構すきです。性自認と生物学的性とのギャップに関して、身体的な生殖機能まで変えたいと思う理由をいまいちわかっていなかったのですが、少しわかった気がします。当然これもケースの一つだとは思うのですが。『目に入るとバグる』『身体が勝手に赤ちゃん産む準備して』はなるほどなぁと思いました。
これも、慎悟がお金を出して、慎悟目線でちょっといい話風に終わらせず、後味悪い要素入れてるのがすきです。それでも読後感は爽やかです。愛は目分量。
本筋の流れではないですが、『俺のほうが思春期の子どもみたいな受け答えだな』の展開が個人的にツボでした。
■ 式日
この作品集の締めとして相応しい、印象的な作品です。また、ネオンテトラの笙一が出てきており、多分笙一はこのあと…という感じなんですよね、多分。
『不確かさが自由で寂しい』という表現、天才か?
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■ まとめ
どれも濃厚で、ハッピーな感じはあんまりないのだけれど、不思議と読後感はほんのり暖かい気持ちになりました。この感じが、『夜空で泳ぐチョコレートグラミー』と似ているなと感じた点です。
本屋大賞ですが、本作は大賞の有力候補ではないかと思います。短編集であることがどこまで影響を与えるか…といった所でしょうか。