ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

恋愛地獄小説だって一生推してろ

斜線堂有紀さんの『愛じゃないならこれは何』を読みました。タイトルオシャレ。

 

最近、YouTubeの『ほんタメ』というチャンネルを時々見ているのですが、これの企画の大賞に選ばれた作品です。前々から、チャンネル出演者の齋藤明里さんと好みの方向性が似ているなぁと思っていたので、今回それを確かめるために読んでみました。

 

そしたらまぁ、恋愛小説において私が好きなタイプのど真ん中を往く地獄小説でした。外見は違うけれど、私の好きな田辺聖子作品と内面は同じ、そんな感じでした。

 

恋愛を主とする強い感情に勝つことができずに、わかっているのに地獄へと突き進む登場人物たち。私は、潜在的な強い共感のもと読んでいるような気もするし、はたまた私がこれまで持ちあわせたことがないこの強い感情たちに恋焦がれる想いで読んでいるような気もします。

 

斜線堂有紀さんとは今回が初めましてになります。普段はミステリを書かれている方のようなので本作のような恋愛小説は珍しいのかもしれませんが、私のためにもっと書いてくれ…と思ってしまうレベルです。

 

どの短編も好きですが、特に『ミニカーだって一生推してろ』と『きみの長靴でいいです』がめちゃんこ好きです。

 

ちなみに既読の方向けに紹介しておくと、本作の番外編?的にもう一つ短編が以下で公開されています。これもめちゃんこ良いので読んで…。

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以下、ネタバレありで書いていきます。

 

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■ ミニカーだって一生推してろ

ファンをストーカーするアイドル。設定がもう地獄ですよね。

推しを推すということは、推しを祈りの対象とすることと非常に近しいと思っています。一方で、生身の人間は祈りには到底耐えられないので、一つの手法として、アイドルという偶像を推す・推してもらうというのがあるのだと思います。

めるすけの基本スタンスとしての推し方は、そういった文脈に沿った健全な推し方でした。あくまで不可侵の存在として推しを推す。なんて健全なのでしょうか!!

一方、瑠璃からめるすけへの感情・祈りというのは、非常に危険ですね。瑠璃は常にめるすけを可侵の存在として認識しています。でも、めるすけに伝わってしまったら最後、めるすけは自分に向けられた祈りには耐えられないはずです。

瑠璃もそのことは重々承知だから、すんでの所で踏みとどまった。祈りの対象ではなくて恋愛の対象であったなら、めるすけのお家で対面する未来を選択してもよかったのかもしれません。瑠璃の中ではまだ、"自分を推してくれているめるすけ"という偶像を推していたいという感情が、恋愛感情よりも強いのかもしれませんね。

ラスト、ミニカーを自分の比喩としてめるすけに迫る瑠璃。非常に厄介な道を選びましたね…。瑠璃から無意識に影響を受けためるすけも、次第に危険な推し方になりそうな雰囲気が…。でもどうかな、いつかミニカーになっちゃうのかな。

 

というか、タイトルがいいですよね。センス抜群すぎます。

 

■ きみの長靴でいいです

非常によい~~。

妻川から妃楽姫への感情って、これもいわゆる"推し"への感情ですよね。妃楽姫本人ではなく、デザイナー妃楽姫を偶像として推している。そんでもって妻川の場合は、自分もその偶像の一部として加わることで、自分の理想の世界観を構築する。

一方、妃楽姫から妻川への感情は、まさしく恋愛感情ですよね。『ガラスの靴より長靴がよかった』によく表れています。

そんでもってラストが、めちゃんこよい。妃楽姫は恋愛感情に流されて妻川の求める偶像を演じるのではなく、自分の求める理想の舞踏会を貫かんとするラスト。

 

はい、そしてこれもタイトルセンスがとんでもないですね。

 

■ 愛について語るときに我々の騙ること

これもよかった…。

この3人については、各方面への感情を一言で言い表せるような関係値ではないですよね。ぐっちゃぐちゃに混ざりあいながら、誰もどうやってバランスを保っているか分かっていないけど、なぜか崩れていない状態。崩し方はいくらでも思いつく。

3人に拘っていた鳴花の感情が、園生とのキスで一気に転げるのは激おもろポイントでした。そう思ったら新太に転がりそうになりながら、ラストの着地は見事。

私は泰堂新太を愛するように、春日井園生のことを愛している。

 

■ 健康で文化的な最低限度の恋愛

これこそ地獄。一目ぼれの弊害。しんどいし、この先地獄しかないってわかっているのにやめられない。いつかばれるかもしれない恐怖を常に傍に抱えつつ、歩んでいくしかない。

 

本筋からは大きく外れるけど、津籠の登山に対する向き合い方に共感しかなかった。

山に登ることは、自分が自分でいられる時間を作ることなんです!

 

■ ささやかだけど、役に立つけど

まさか続きが読めるとはー!読んだときになんとなく思いましたが本作だけ書き下ろしという感じですね。

この先に地獄が待っていようとも、今の自分の欲求にまっすぐに生きる。これは私の目指す在り方です。

ささやかだけど、役に立つけど、それでも私は私のために逆を行く。

 

■ 転ばぬ先の獣道

この先が、先がみたい…!!

ラストの龍久のズレてる感じがたまらない。この先、月子を不幸にするタイプのズレ方だ。トラという地獄を選ぶ月子をみたい…。

 

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2022年読了作品で暫定トップとして良いんじゃないでしょうか。大満足です。