芝木好子さんの『新しい日々』を読みました。
こちらは、以前オシャンな本屋に立ち寄った際に買った本です。折角なら、普段の本屋では手に入らなそうな本を買いたいな~と思っていたところで、ビビッと目が留まりました。
めちゃくちゃオシャンじゃないですか(語彙力)。完全に装丁買いで、中身も作者さんもよく知らない状態で買いました。
ところがどっこいですよ、私の好みをどストレートに打ち抜いてくる、ベストオブザイヤーの筆頭候補作品でした。運命ってあるんですね(単純)。
やっぱり私は一昔前の雰囲気や生き方が非常に好きで、本作はいわゆる戦後の時代において新しい日々を送らんとする人々の生活が綴られています。本作は芝木好子さんの短編小説から選りすぐりを持ってきた作品集ということもあり、短編集ですがどれも主力級の作品たちでした。
以下、ネタバレを含みます。
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■ 新しい日々
百合の人生における分岐がいくつも見えるような作品でした。
家出をして、夏雄の工房にきて、夏雄と結婚する人生、雄次と付き合う人生、図案さんとして生きていく人生、…。
そんななかで、彼女のささやかな抵抗として家出があったものの、どの人生を歩むか自らが選べる状況下にないことが、この時代、とりわけこの時代の女性を象徴的に表しているように感じました。
■ 脚光
これ一番好きかもしれない。あきからおくさまに向けられる感情って、祈りですよね。私の解釈では推しを推す感情と類似性の高い感情です。やっぱり言語化されてないだけで昔からある感情ですよね…。
おくさまが壊れてしまったのは、あきからの祈りが原因ではないけれど、おくさまが自身を祈りの対象として見ていたってことですよね。自身の祈りの対象である偶像としてのおくさまと、自分の現実的な立ち位置のギャップに、遂に耐えられなくなってしまった。
やはり生身の人間が祈りの感情を向けられることには耐えられないのだなぁと思いました。
■ 白萩
とても印象的な作品。プラスの感情でもマイナスの感情でも、何かしらの引っかかりがないと心に残らないんですよね。私を選ばなかった徹生に惹かれる感情がとてもわかります。
俊二が低くわらいながら、君の偶像も落ちたな、と言った。
これってどういう意味なんだろう。君の偶像=徹生なら俊二は見抜いていることになるし、君の偶像=淳なら的外れすぎてとことん俊二っぽい。後者だといいな。
■ 晩秋
これも洋子の、かつての祈りの対象であった桂さんとの物語。これはラストの魅力がすごかったです。過去と現在、幻想と現実が入り乱れる感情は晩秋がよく似合う気がします。
■ 冬の梅
これはとても理性と感情のはざまな雰囲気が好きです。
■ 遠い青春
若子と千夏の最期の掛け合いが、フィクション味が強いけれど好きです。
■ 老妓の涙
これも理性と感情のはざまな雰囲気で好きです。高野くんの圧倒的な噛ませ犬感と、本人は自覚がないのがとてもとても悲しい。
■ 十九歳
奥様との秘密の関係性が光る作品です。ラストの奥様の台詞がどんな意味を持っているのか読み取り切れなかったけど、由木にはしっかり伝わったようでなにより。
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また新しい作家さんに出会えてハッピーです。ゆっくり読んでいきたい。