ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

小説というマスメディア

羽田圭介さんの『成功者K』を読みました。

 

羽田さんは、小説としてはお初なのですが、宇佐見りんさん特集回の『タイプライターズ』に出演されていたり、YouTubeでも少しお見掛けしたりしていました。

 

宇佐見さんの影響で純文学というものへの興味が強くなってきているので、羽田さんの作品を読もう!と思い、どなたかがオススメしていた本作を読みました。

 

設定がかなりトリッキーな感じで、羽田さん一作目として適切な選書だったのかどうかは分かりませんが、とにかくめちゃくちゃ面白かったです…。

 

芥川賞を受賞した成功者Kが、テレビに出まくることで人生が変わっていく(狂っていく?笑)というお話で、表紙にも羽田さんの写真が使われており、実話であるはずのない設定なのに謎の実話感を感じさせるのがとても面白かったです。

 

中盤までは成功者Kの少し行き過ぎた私小説風といった印象で、今まで私が持っていた純文学の印象とは違いました。純文学は自由度が高いので、なるほどこういうのもあって奥が深いなぁ~と思って読んでいたのですが、結末のあまりの芸術性の高さに、『なるほどこれは純文学だ!!』と謎の納得感がありました。

 

それでは以下はネタバレありで書いていきます。

 

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■ タイトルが秀逸

これは読んでいる中の序盤で気づいたのですが、『成功者』は『性交者』とかかっていますよね笑。直接的すぎて笑ってしまった。

それだけではなく、『成功者K』という表現自体に込められた想いというか、『成功者K』とKが乖離している様というのが分かってくると、タイトルとしてこれ以上のものはないなと思いました。

 

■ 謎に高いリーダビリティ

設定はぶっ飛んでるし、成功者Kはひたすら性交するめちゃくちゃな展開なのですが、何故か読みやすい不思議な小説でした笑。成功者Kの危うさ・刹那性からくるハラハラがそうさせるのでしょうか…?スイスイ読んでしまいました。

 

■ 結末の芸術性の高さ

ぶっ飛んだ設定と中盤までの成功者Kの奔放さとは裏腹に、小説としての芸術性が非常に高いなと感じました。『成功者K』の経験を小説として書き上げ、テレビのディレクターから『成功者K』ではなく『素のK』を求められた辺りから、急速に『成功者K』という幻が散っていく。幻と現実の境界が非常に曖昧ですがそこはまさしく純文学といった感じで、ある意味でこれまで全部が幻、過度な誇張であったと読み取れます。

めちゃくちゃややこしいことを書きますが、『成功者K』という小説が、本作中に登場する過度な誇張を良しとするテレビと同種のマスメディアである、という非常にメタ的な構造なのだと思います。

 

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純文学は、まだ数えるほどしか読んでいないのですが、着実に沼に向かって歩いているなというのを感じています。とりあえず、羽田さんの作品を読みたいな。次はやはり芥川賞受賞作とかがいいのかな。