ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

"この世"を卒業するバーチャルアイドル

柴田勝家さんの『走馬灯のセトリは考えておいて』を読みました。

 

柴田勝家さん(相変わらず名前がややこしい)の作品は、私としては3作目でしょうか?私は普段SFを読みませんが、不思議とこの方の作品には手が伸びます。おそらく、私が文化人類学や推し・信仰に対して興味を持ちやすく、柴田さんはこれらとSFを混ぜ合わせた作品が多いからだと思います。

 

さて本作は何といっても、この強烈なタイトルですね。正直このネーミングは天才だと思います。そして設定も、『"この世"を卒業するバーチャルアイドルのラストライブ』という話で、非常にぶっ飛んでます。それなのに、それなのにですよ、名前負けも設定負けもせず、非常に完成度の高い作品を持ってこれるのだから感服です。

 

本作は短編集で、比較的SFSFしてない作品が多いので、普段SFを読まない人にもおすすめです。どの短編集もよいですが、個人的にはやはり表題作の『走馬灯のセトリは考えておいて』がずば抜けていると感じました。次点で『クランツマンの秘仏』かな~。

 

解説も現役のVtuberさんが書かれていて、非常に解像度の高い解説で満足度が高かったです。"推すこと"に対する解釈が私と同じすぎました。

 

それでは、以下はネタバレありで書いていきます。

 

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短編ごとに書いていきます。

 

■ オンライン福男

これも発想が天才。こんな設定で妙なリアリティを演出できるのは、文化人類学のおかげ(?)なんだろうなと思っています。

オチも見事としか言いようがありませんし、合間合間の小ネタも無駄に洗練されていて終始笑いながら読めました。

 

■ クランツマンの秘仏

"信仰が質量を持つ"とはどういうことかを丁寧に描いた作品です。一見突飛な設定に見えて、妙に説得力のある論調にできるのは、文化人類学のおかげ(?)なんだろうなと思っています(2回目)。

信仰/祈りに関して、その要はあくまで信仰すること/祈ることという行為にこそあるという主張から来る発想なのかな。だからこそ、行為と辻褄があうように対象の方が書き換えられていく。これは確かにそうなのだろうと思います。

 

■ 絶滅の作法

仮想的に再現された地球において人間の生活を模倣する宇宙生命体のお話です。妙にオシャレな雰囲気を漂わせていた。

こうやって振り返ってみると、前2作との共通点が見えますね。実態がどうであるかはあまり重要ではなく、行為とそれに伴って得られる自分の感情にこそ主眼が置かれるべきである、ということかな。

 

■ 火星環境下における宗教性原虫の適応と分布

この作品はずば抜けてSFSFしていたと思います。個人的にはちょっと読むのが大変でした。やはりゴリゴリのSFはまだ私の範疇ではないようです。

とはいえ概念自体は共感できるもので、宗教の伝播を宗教性原虫による影響と解釈し、火星における宗教の変遷を追うような物語でした。

 

■ 姫日記

正直に書いてよいとするならば、個人的には本作は別の短編集に入れる、またはおまけにすべきではなかったか…と思いました。テーマが他作品と同じであることは分かるが、雰囲気が余りにも異質でした。常に作者の顔(VRゴーグルをつけた例の顔)が浮かんでくるような作品でした(笑)。

場所が違ったのではと思っただけで、作品自体は作者の価値観を堪能できる良作だと思います。クソゲーに幸あれ。無駄な時間を楽しんでこその人生だよね。

 

■ 走馬灯のセトリは考えておいて

まず発想が天才すぎる。いや、私が普段SFを読まないせいなだけで、SF業界ではよくある設定なのかもしれませんが。

設定自体は一番SFっぽい感じでしたが、説明が丁寧だったのと、結構しっかり物語調(語り部がしっかりしている)だったので、世界観を十分理解しながら読むことができました。こういう世界が実現するのも、少なくとも技術的にはそう遠くない世界だと思えるからということもあるかも。

そのうえで、この設定を150%活かしたストーリーでした。SF的な面白さであるのかどうかは分かりませんが、少なくともSFでしか描けないものではあったはずです。

それから展開の仕方が上手い。普通に終盤泣きました。父親の状況や、手を合わせる癖の削除など、うひょ~~って感じでした(語彙力)。

本作でも信仰/祈りについてがテーマになっています。ライフキャストはある意味で信仰/祈りという行為を保存しておくためのものでもあるような気がします。その対象としても行為者としても。

 

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最期に、解説の一節が好きすぎるので、これを引用して締めたいと思います。

 

信仰とは生への不安感を解消し安寧を得るための手段であり、なかでも他者を推す=祀るロールは人生をやり過ごす効果的な酩酊ツールです。その感情が酩酊であると分かっていても、全ての信仰を棄教して生きるには人生はあまりに長く、全てに醒めて生きるメリットはあまりに少ない。