ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない

重めのお話ばっかり読んでると、たまには何も考えずに読める作品が欲しくなります。

 

半年ほど前、「森があふれる」の解釈でヘロヘロになってた時に、まさしく欲しくなりました。それでとある友人からオススメを頂いたのが「孤宿の人」です。

 

いや、宮部みゆきという時点で、何も考えなくていいはずがない……。案の定、ボリュームもたっぷりだったので、読み出すまでに時間がかかり、今になってようやくの読了となりました。

 

宮部みゆきさんは、実はあまりお付き合いがありません。3年ほど前に「ソロモンの偽証」という超大作を読み上げ、その名作さに度肝を抜きました。ただ、その分厚さにも度肝を抜いたので、それっきりとなっていました。

 

そんなわけで「孤宿の人」ですが、端的に言って名作でした。

ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない。悲しいけれど、悲しさだけじゃない。

 

状況が目まぐるしく変わるけれど丁寧で、置いてかれることなく、それでいてダレることなく、最後まで走り切る。「ソロモンの偽証」でも思いましたが、ここが宮部みゆきさんの魅力の一つと感じました。

 

以下、ネタバレありで感想を書きます。

 

 

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時系列でまとまりなく感想を並べていきます。

 

まず序盤。特に人からオススメされたものについては極力事前情報を入れずに読むようにしていて、裏表紙のあらすじさえ読まずに内容に入りました。

 

ほうが井上家で奉公している所からスタート。悲しい生い立ちから、井上家でのご縁へと繋がる。井上家でのほうの成長物語かな?と、この時は考えていましたよ…。この時点で、ほうへの感情移入はバッチリでした。

 

なので、琴江さまが死んだのはめちゃくちゃな衝撃展開でした。あっこれはそういう作品か…一番優しそうな人が…これは序盤から辛すぎる…。

 

でも時代小説で推理もの(だとこの時点では思った)は中々読まないので、ワクワクはしていました。

そして宇佐の登場。宇佐がいわゆる探偵役かな…?と思いつつ。

 

そして宇佐目線で語られる中で、琴江さま殺人の隠匿が図られる状況に。ほうへの感情移入が進む…。

 

そして、ほうと宇佐の同居生活がスタート。オススメしてくれた友人が好きそうなポイント(偏見)。ほうの心のこんがらがり具合は相当ですね…。「働かざるもの食うべからず」精神や、悪霊のくだりとか。宇佐も宇佐で、板挟みがしんどいなぁ〜。

 

一番好きなのは、やっぱり日高山神社への参拝です。舷州先生とのやり取りもあってすごく印象的なのです。いま思い返せば、ここが二人の関係性のピークというか、なんというか…。語彙力がないけれど、そういうことです。あと、後々まで生きてくる、雷除けのお守りね…。

 

あとあと、「おあんさん」という描写が好きです。前も書いたと思うけど、感情が込められている呼び名って表現が大好きなんです。

 

そしてほうが涸滝に連れて行かれる。あれ?琴江さまの事件の話というよりは、もっと大きい話だなと気づきました。

超重要人物なのに、一向に気配すら出さない加賀様ね。結局、上巻では全く出ずじまいでした。ここまで持ち上げられてるので、実は狂人じゃないんだろうな、とは気づいてました。

 

琴江さまの件については、美祢さまがすんなり(すんなりじゃないけど)認めちゃいました。そして親分の子供たちの事件…。

 

そして、石野さま。ほうは丸海藩に来てからは、それまでの悪いご縁を必死に打ち消すかのように、良いご縁に恵まれますね…。でも、彼も消えてしまうのですよ…悲しすぎる。

 

いよいよ加賀さまが登場。不思議な人だけど、やっぱりお優しい方でした。ほうは混乱しながらも、手習いを楽しみにするようになる。いいなぁ、ここらへんのやり取り。

 

阿呆のほうから、阿呆以外のほうになるだろうなと思ってはいたけれど、最後くらいの展開だと思ってたからアッサリ「方」が出てきたのは意外でした(これはミスリード?に近いアレでしたけど)。でも、涸滝から逃げる時に、加賀さまの言葉を思い出して勇気づくのはよかった。

 

逃げろって言われた時に、加賀さまに意見聞きに行くのは面白かったです。純粋に加賀さまを案ずる気持ち、手習いをまだ受けたい気持ち、手習などの恩義があるのに無言で立ち去れないという気持ち。ほうの純粋な気持ちがよく現れていました。

 

そして最後。宇佐の不穏な描写から、ほうが宇佐のもとではなく井上家に戻っていることからさらに不穏さを感じて覚悟したものの、しんどすぎる…。そりゃないぜ…。死際の宇佐に必死に語りかけるほうが、やばかったです。

 

そして加賀さまの死も確定する。その中で、「方」のほうから更なる進化を遂げ、「宝」のほうに…。あたらしい「ほう」を匂わせたところで思わず一旦読むのをやめ思考を巡らし、「宝」に思い当たった時が、本作で一番感情が溢れたところです。文字通り涙が止まらないというか、声出して泣いてたので、お家で読んでいて本当に良かったです。

 

本作は、どうしても悲しい物語だけど、悲しいだけじゃない。ほう目線で、琴江さまもおあんさんも加賀さまも死んでしまった。けれど、みんなとの繋がりが消えてしまったわけじゃないし、いつもそばで見守ってくれているから、悲しいだけじゃない。ひとりだけど、決してひとりぼっちじゃない。

 

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以上、主にほう目線になりました。宇佐目線の話ももう少し掘り下げたかったけど、元気があれば別でまとめる感じにしようかな。

 

今後のほうに、なるべくたくさんの幸福という宝が巡ってきますように。