ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

『失礼。いま何時でしょう』

田辺聖子さんの「感傷旅行」を読みました。

 

この前「ジョゼと虎と魚たち」を読んで度肝を抜かれた方の、芥川賞受賞作と聞いて、すぐに購入しました。

 

これも短編集でした。うまく表現できませんが、タイトル通りどれも感傷的な作品で、理屈よりも感情が勝るシーンが印象的に描かれていたように思いました。

 

お気に入りは難しいけど「田舎の薔薇」かな。

以下、簡単にネタバレありの感想です。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【恋の棺】

これすき。ジョゼにも入ってたので割愛します。

 

【いま何時?】

前半は結構刺さりました。自分の決めたことを形式上だけでも継続することで、意識をごまかす、そしてよく妄想をする…。

後半は、私は本物のヘタレなので、いざとなると断っちゃうと思います。前半の行動によって理想がどんどんどんどん上がっていって、しまいにチャンスをチャンスと思えなくなる。あれ、救いようがないな…。

とはいえ、主人公のように衝動的?に行動するような側面もあるので、自分が旅してるような気持ちになりました。

 

【田舎の薔薇】

主人公は、はじめ志した想いも嘘じゃないけど、大人になるにつれ背負ってきたものにも自覚的で、負担を感じつつも後悔をしているわけではない。あぁ、これこそ人生ではなかろうか、と思った次第です。

七七の句シリーズも好きです。特に「食わせてやって顔色をみる」。これは痛烈。

でも最後は、自らの意思で背負いなおす。こういうの、いいな。

 

【感傷旅行】

何がと言われるとうまく言えないんですが、なんだか特殊な短編でした。いわゆる「党員」というものになじみがないのですが、端々から感じる生々しさというか、なんというか…。

どの時代に書かれたか分かりませんが、当時にっておそらく前衛的な作品だったのだろうと推測されます。

あまり主人公の心のうちは見えてきませんが、だからこそ感情ではなく感傷で旅行をしているのだな、と思いました。