ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

『私より、仁胡瑠の方がずっと変わってるよ』

彩瀬まるさんの「草原のサーカス」を読みました。

 

彩瀬さんの長編、大好きなんです。いや、短編も大好きなんですが。長編でいくと、「珠玉」ぶり?

 

(追記・今回いつも以上に自分の話にすり替わってます…ご容赦ください)

 

彩瀬さんの長編って、彩瀬さんが隣で一緒に考えてくれてる感じがあって、すごく心地いいんです(気持ち悪いこと言ってるな…)。我々に"伝えたい"や"教えたい"というモチベーションよりは、我々と"考えたい"と思ってくださっているような気がして。これも随分勝手な解釈な自覚はありますけど。私の中ではこれが"正しい"ので。

 

なので、ここは人を選ぶところかと思いますが、全てが綺麗に纏まるなんてことはありません。彩瀬さんが今到達しているところまでのことを、キリが悪くても余すところなく出し切ってくれているような気がします。

 

今回の作品は、すばり"正しさ"とは。私の一昨年くらいからのテーマなので、ドンピシャでした。コロナ禍に通ずる所もあって、今この時代に、この精神状態で読むことができて本当に幸せだな、と思いました。

 

以下、簡単にネタバレして感想を。

 

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依千佳のくだりはしんどいな〜。個人個人でみると致命的な人間はいないのに、いざ団体になると明確な悪を生み出すこの感じ、あるあるですよねぇ…。利害関係があると特に、本人の意思に関わらず忖度による害を投げつけられることもあるだろうし…。

最近の私の考えとしては、境界の見極めをハッキリすることが一つの(私なりの)解決方法かな、ということです。どこまでの要素の説明変数に私を入れるのか。逆に言えば、どこからを環境条件にしてしまうのか。

 

仁胡瑠については、だいぶ感情移入してしまったので、貝原の理解のできなさに悲しくなってしまった…。言いたいことは分かるけど、もう少し仁胡瑠に与える影響を想像して欲しかったな…。

 

終盤は黒川さんの話も交えながら、深いところまで到達して、"正しさ"についてグルグル考えだす。

 

『その、自分の周りの正しさに、合わせなきゃ切り抜けられない瞬間がたくさんあるのはわかってる。でもその瞬間を切り抜けらたら……もっと利己的に、自分が本当に感じる正しさに沿った行動や選択をした方がいいと思う。その方が、ストレスもたまらないし」

 

私の今のところの解答って、まさしくこれなんですよ。凪良先生の考え方に似ていて、彩瀬さんは少し方向性が違うと思っていたけれど、上位概念としては同じだったのかもしれないですね。

 

まず、前半の所ですが、自己矛盾は大いに受け入れる。それよりも、自己矛盾に至った心の動きを客観視することで、自分の真意を解釈して、今後につなげたい。

 

そして後半はそのまま。広義の意味で、人類はみな利己的であると思っています。誰かのためというのは、その誰かが幸福になることで自分が幸福に感じる、または幸福になるだろう、なってくれと祈ることで自分が救われる、ということなんだと思ってます。そういう意味で利己的。

 

だから、他人との関わりも全てひっくるめて、自分がどこにどう正しさを感じるのかを、解釈していきたい。

 

そういうことを彩瀬さんと一緒に考えることのできた、最高の物語でした。