ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

日差しに浮かぶ星のような埃の粒

彩瀬まるさんの『新しい星』を読みました。

 

いやそれにしても彩瀬さん、筆が早い…。今年だけで3冊も刊行されるとは。雑誌での連載ものだから色々重なっただけかもしれないけれど。

 

本作は幻想要素はほとんどなく、現実と地続きになっているような作品です。テーマとしては、最近の作品と同種のものを感じました。「普通」について。「正しさ」について。

 

大学時代の同級生4人の交流を軸にした連作短編集ですが、正直にいえば、彼女らの物語というよりは、彩瀬さんの想いの物語のように感じました。裏に控える、彩瀬さんの考えが透けてしまっているような感じです。

 

なので、物語を通じて、現実への向き合い方に思いを巡らすという観点では、彩瀬さんが隣で一緒に考えてくれるようなイメージで、とても心地よい作品です。この点は『草原のサーカス』と近いかも。一方で、創作物語という観点では、現実にあまりにも近すぎて、人を選ぶ感じかなと思いました。

 

以下、ネタバレありです。

 

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まずは物語としての感想から。

 

一つは、大人になってから初めてわかる自分のことって、結構多いよねということです。本作は、社会に出て、色々な経験と出会いがあって、それぞれ苦悩を抱えた4人の物語です。大学時代の自分では思ってもみなかった壁に直面して自分自身驚いたり、友人からみても意外と思える状況に陥っている描写があります。大学の時点で約20年、自分と付き合ってきているというのに、社会に出て環境条件が変わると、自分の中にある新しい線、論理に気づくんですよね。

私自身も社会に出てからそう感じることが多かったです。でも自分の機嫌は自分で取りたいという想いが強いので、なるべく多種多様な刺激を自分に与えようと、頑張っては、います…。(ここ2年、本しか読んでないのによくそんなことが言えるな?)

 

あとは4人の適度な距離感、関係性が心地よかった。環境はバラバラだけど、悩むことには少なからず共通項があるし、さらっと本音が吐き出せるくらいの絶妙な距離感。よい。こういう縁は大切にしたいね。

 

続いて、物語を通した主張(?)について。

社会には意図的かどうかにかかわらず、自分に傷をつけてくる存在がいたるところに居る。それに対して、どう向き合っていくか。

 

正しいことを正しいと主張し、それを排除しようとする存在には屈しないこと、自分が正しくないことが分かったら、それを正すこと、こんな方向性で話が進んでいるように感じました。奈緒がお風呂に入るのをためらう描写や、ラストの玄也が奈緒に謝るシーンなど。このあたりの考え方は、彩瀬さんがコロナ禍のリレー短編キャンペーンみたいので書いていらした短編を想起させます。

 

私個人としては、ちょっと方向性が違っていて、排除しようとする存在は無尽蔵に湧いてくるので、この存在があること自体にストレスを感じてしまうと、至るところでストレスだらけになってしまうんですよね。だから、向き合うかどうかも含めて、本人の正しさ・幸福に従って行動するのが良いんじゃないかな。たとえ認識してしまったとしても、一般的な"正しさ"に従う必要はないし、自分の正しさはもっと流動的でいいんじゃないかな。世界のためを想う一歩手前に、あるいはその源泉に、自分のためを考えるステップを忘れずに差し込みたいね、という主張です。無論、大きな目指すところは本作の主張(と私が解釈しているもの)と同じなのですが。

 

う~ん、作品の主張も、私自身の主張も、うまく言語化できず、誤解を招きそうなのでこれ以上はやめておきます(誤解を招くほどこの文が読まれるはずはないけど)。

 

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いつも物語を通して、一緒に考えてくれる彩瀬さんがわたしは大好きです。これは誤解じゃありません。