ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

ひのくるま

宮部みゆきさんの『火車』を読みました。

 

『ソロモンの偽証』と『孤宿の人』で完全に宮部みゆきさんの虜になりつつ、その分厚さには慣れていない私に、これまた友人がオススメしてくれたものです。

 

オススメしてもらった本作と、『理由』と『模倣犯』を半年以上前に一気買いして、しばらく本棚に鎮座していました。圧倒的分厚さと赤い背表紙で、存在感すごい…。

 

そうして、ようやく長編パワーがみなぎってきたので今回は手始めに本作を読んだというわけです。

 

これまでに読んだ2作から、作品の盛り上げ方が異常に上手く、分厚いのに一気に読みたくなる、そんな印象を持っていましたが、本作もこの例に漏れずの作品でした。

 

本作は、ザ・社会派推理小説です。これが宮部さんの本拠地か…と震えました。

お金にまつわる現代に通ずる問題を取り上げつつ、問題を取り上げること自体が目的にはなっていない。問題に直面した登場人物たちの切実な想いがリアリティをもって描かれています。

 

では、以下はネタバレを含みます。

 

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ストーリーを追っていくと長くなってしまうので、構成をベースについて触れていきたいと思いますが、ストーリー展開、天才すぎませんか?

 

最初は何もわからない所から、断片的な情報が徐々に集まってきて、中盤から一気に情報が繋がってきて、最期には喬子の壮絶な人生に震える展開。長編小説特有のうまみが凝縮されていました。

 

本間の『君に会ったら、君の話を聞きたいと思っていたのだった』という気持ちがよくわかる。喬子のなにもかもを一人で抱え込んだ境遇を知ってしまった以上、慰めとなるのは話を聞いてあげることくらいなのだから…。

 

ラスト、読了直後は「あ、ここで終わりなのか…」と思いましたが、全体を振り返ってみると印象的でよい終わり方だと思いました。大半の謎は解けたけれど、喬子本人が何を思い、行動してきたのか、ホワイダニットの部分は完全には明かされません。この残されたミステリアスさが良いのですよね。喬子本人の語りが最期に入ってしまうと、よくも悪くも解釈の余地が無くなってしまいますから…。

 

あとはタイトル『火車』。「ひのくるま」がメインの意味合いだろうけれど、喬子をどんどん地獄へと運ぶ火車でもあり、また放火の件も少し引っかかっているのかな、と思うとすごいです。

 

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次に宮部みゆきパワーが溜まったら『理由』を読むかな。いや、どっかの期間で意識的に『模倣犯』週間(または月間)を作っても良いな…。