宇佐見りんさんの『くるまの娘』を読みました。
『推し、燃ゆ』と『かか』で宇佐見作品の虜になっていた私を、ダメ押しで虜にするような作品でした。完全に宇佐見作品は私の推しとなりました。
本作は、『推し、燃ゆ』と『かか』でも語られたような"家族"がテーマの作品です。家族という枠組みにける混沌と地獄が生々しすぎるほどに生々しく、そしてぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。"家族"というテーマについては、前2作よりももっと深い所まで潜ってきているけれど、もっと混沌としていて正解のない世界まで到達してしまっているなぁという感じでした。
どちらかというと『かか』に近いので、『かか』好きの方は特にオススメです。
それから、相変わらずえげつない表現力でした。今回もそんなにページ数が多いわけではないのですが、1文1文噛みしめながら読んでいたので、非常に体力を持っていかれる読書でした(いい意味で言ってます)。比較的我々も持つことがあるような感情を、鮮やかに描写するので、自分の心の中をつまびらかにされているような、現実世界の私の思考に強く影響を与えてくるようなパワーのある作品です。
では、以下はネタバレありで書いていきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回も、感想というよりは、えげつない表現ポイントを引用していく感じにします。
かんこは光を背負っている。
p4。冒頭です。この1文では読み取り切れないけど、後ろの文で、あぁこの感覚を『光を背負っている』と表現しているのか!!となって初っ端からやられました。
話しながら、一時的には原因をつきとめたようにも思われるのに、礼を言って外へ出て、蒼い芝を踏んだ瞬間にはもう違っていると思った。
p8。この感覚も知っている…。諦観につながる感覚です。
ひっついた内ももの皮膚をはがしとるように、両膝をひらいた。
p15。『皮膚をはがしとるように』って…まさしくあの感覚じゃんね…天才か??
突然あらゆるものが他人面をしだす暮れどきだった。
p33。そうか、暮れどきに感じる不安は他人面をされているからだと思うと妙に納得した。
かんこが、本気で親を守らなければと感じたのは、そのときがはじめてだった。
p46。かんこの自覚は早すぎるけれども、早かれ遅かれやってくる感情だと思うのよね…。親もただの人間であると知ることから来るものでもあるし、見過ごされがちだけど子から親への愛情ってのは無視できないよね…。
節分の豆は鬼を痛めつけるために投げるのではない。豆を投げてみせることで、内の者を安心させるためにする。
p67。この行為は人間の活動の半分くらいを占めると思う(暴論)。
あたえられた苦しみをどうにか肯定するには、あえてその苦しみを取り込んだ上で突き進むという選択肢をとるしかなかったのだろう。
p72。苦しみを苦しみのまま肯定するという道もあるのか…。今まで気づけなかった価値観の存在だ…。
何かが起こり、それに傷ついても、気づくとなあなあに溶け込んでいる。
p81。これは家族レベルのコミュニティに特有な、それでいて誰しも経験したことがあるであろう感覚だ。なあなあに甘えがちな人間なので、ここでビシッと線を引ける人をいつも自分とは異なる人種として見つめている。
助けるなら全員を救ってくれ、丸ごと、救ってくれ。
p83。本作の一つの到達点だと思う。『かか』の『にんしんしたい』くだりに相当するレベルの。
「結局、助けてくれないわけじゃない、誰も。国がどうなったって、時代がどうなったって人間が人間である限り何も変わらない気がする」
p87。まじでこれ。
父もまた、背もたれを蹴るような、つまり「被害に対する正当な抵抗」の感覚で、家族に対して力を行使していたのではないか。
p121。なるほど…。つまり「正当防衛」の解釈の違いに起因すると。この目線は確かに必要かもしれない。
あのひとたちはわたしの、親であり子どもなのだ、ずっとそばにいるうちにいつからかこんがらがって、ねじれてしまった。
p123。第二の到達点。かんこほど強烈な状態ではないにせよ、多くの人が持つ感情ではないのだろうか?先程も触れたように「子から親への愛」というものが一般化されていないから、あんまり見えてこないし、社会的立場も影響して、こんがらがっているように感じるだけで、想いそれ自体は、すごく普遍的なものなんではなかろうか。まぁ普遍的だからなんやねん、という話ではあるけれど。
もつれ合いながら脱しようともがくさまを「依存」の一語で切り捨ててしまえる大人たちが、数多自立しているこの世をこそ、かんこは捨てたかった。
p124。強烈だ…強烈なかんこの叫びだ…。
柔らかくぬるく、ありふれた地獄だった。~(中略)~。地獄の本質は続くこと、そのものだ。終わらないもの。繰り返されるもの。
p131。はちゃめちゃに同意。的を得すぎていて怖い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
毎度思いますが、宇佐見作品は感想書くの無理ですね。書きたくないと思うほど、自分の中に踏み込んでくる。