昨年に続いて、今年も本屋大賞ノミネート作10作を、すべて読むことができました。
とても濃密で幸福な期間でした。新しい出会いがあり、未知の世界との触れ合いがあり、本屋大賞はやはり多種多様な作品がそろうなぁとしみじみ感じました。
さて、今年も甚だ僭越ながら本屋大賞順位を考えていきたいなと思います。昨年よりも経験値はついている自負はありますが、10作読んだ感想としては、『これは当てるの無理だな』という感触です(後述)。
基本ネタバレなしで書いていきます。
■ 本屋大賞の選考方法
本屋大賞の二次選考については、各書店員の方々が、10作を全て読んだうえで、トップ3を選ぶという形式になっています。点数は1位>2位>3位となりますが、4位以下は全て0点というのが注目点だと思います。
後述しますが、今年のノミネート作はかなり拮抗していると思います。そうなると、1位を取りやすい作品というよりも、どんな方でもトップ3に入ってくるような作品が強いのであろう、と思っています。つまり、好き嫌いがハッキリわかれるような作品は選ばれにくい、ということです。
また、短編は長編に比べてやや不利のようです。特に、完全独立した短編集だと、本単位で推すのにためらいが生じる側面があるのではないかなぁと思います。その点、連作短編であればそこまで不利ということはないかもしれません。
■ 本屋大賞の目的
本屋大賞は、『全国書店員が選んだ一番売りたい本』です。『一番売りたい』本です。つまり、他に売る・売れる理由のある作品は敬遠される傾向にあると思います。具体的にいえば、既にほかの文学賞を受賞している作品は選ばれにくい傾向にあると思います。
直木賞を例にみると、過去に直木賞と同時受賞したのは『蜜蜂と遠雷』のみということです。つまり、『蜜蜂と遠雷』レベルの圧倒的な面白さ、かつ全員に受ける要素がないと厳しい、ということだと思います。
■ 近年の受賞傾向
2018年:かがみの孤城
2019年:そして、バトンは渡された
2020年:流浪の月
2021年:52ヘルツのクジラたち
これらを見ていて気付いた共通点があります。『生きづらさを抱えた人の、ささやかな救いとしての"繋がり"』がテーマになっていることです。詳細は各作品のネタバレになってしまうので避けますが、これは気づいたときハッとしました。
■ 順位予想
1.正欲(朝井リョウ)
2.スモールワールズ(一穂ミチ)
3.同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)
4.赤と青とエスキース(青山美智子)
5.硝子の塔の殺人(知念実希人)
6.黒牢城(米澤穂信)
7.六人の嘘つきな大学生(朝倉秋成)
8.残月記(小田雅久仁)
9.星を掬う(町田そのこ)
10.夜が明ける(西加奈子)
個人的満足度の順位については、黒牢城が急上昇する以外は、大体おんなじ並びです。
■1~4位総評
私の中の満足度はほぼ並列です。
そのうえで、先程の『生きづらさを抱えた人の、ささやかな救いとしての"繋がり"』というのに見事にマッチし、長編である『正欲』が1位になると予想しました。
性欲をテーマにした少しセンシティブな側面がありますが、裏を返せば性欲は人類共通のテーマであるので、それだけで本作を否定的にとらえることは難しいと思います。
かつ、10作を見渡した時に、読者(の価値観)に与えるインパクト・印象はダントツで一番だと思います。トップ3のどこかには入れたくなるんじゃないかなぁ。
■ 5~6位総評
私の中の満足度は、1~4位とほぼ並列です。つまり、私の中では6/10作がほぼ並列というとんでもない状況になっています。『大賞当てるの無理だ…』と思った理由です。私としては、1~6位のどれかが大賞を獲ったら、『だよね~』って感情になると思います。
この2作は、面白さは間違いないですが、ゴリゴリのミステリ、時代小説と、ジャンルがやや敬遠されやすいのかなと思ってワンランク落としました。
■ 7~10位総評
私の中の満足度は、6位までと比べるとやや落ちますが、どれも本当に読んでよかったと思える作品たちです。
これらについては、本屋大賞というフィールドにおいて、明確に弱点があるな、と感じたのでこの順位とさせて頂きました。弱点と各読者の相性によっては、ダントツ1位になる作品も多いと思います。
★以下、1作品ずつ見ていきます。ネタバレと呼べるレベルのことは書いていないつもりですが、気になる方は線から線まで読み飛ばしてください★
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■ 1.正欲(朝井リョウ)
1位に選んだ理由は、上に書いた通りです。雰囲気が『流浪の月』と似ているんですよね。『流浪の月』を選んだ書店員なら選ばざるを得ない気がする。
10作の中で、私の価値観を揺さぶった唯一の作品です。
■ 2.スモールワールズ(一穂ミチ)
スモールワールズを1位にするかどうか、めちゃくちゃ悩みました…。
最終的には、短編であることを理由に、無理やり2位にしましたが、逆にいうとそれくらいしか根拠はありません。
■ 3.同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)
間違いなく圧倒的に面白いですが、少々長すぎるのが懸念点です。また、アガサクリスティー賞の受賞などもあり、既に圧倒的に売れているので、わざわざ本屋大賞に選ばなくても売れているという側面もあります。
■ 4.赤と青とエスキース(青山美智子)
スモールワールズよりも強めの繋がりを持った連作短編集で、10作の中で一番ほっこりめの作品だと感じました。なので、もっと上でもいいのです。
でも私の中では、昨年ノミネートの『お探し物を図書館まで』は超えることはできていないんです。書店員の皆さんもおそらく昨年も読んだ方が多いと思うので、どうしても『お探し物を図書館まで』が比較対象になってしまうんじゃないかなぁと思います。
■ 5.硝子の塔の殺人(知念実希人)
これも間違いなく面白い(n回目)のですが、ミステリ好きのためのミステリ、という側面が強く押し出されているので、万人に受けるか、というと若干不利かと思いました。
■ 6.黒牢城(米澤穂信)
これはとんでもなく面白い(n回目)のですが、いかんせん受賞しすぎている。このミス、直木賞、そのほかあらゆる賞を総ナメしているので、宣伝文句はほかにいくらでもあるんですよね…。それでも時代小説はなかなか厳しい闘いを強いられているのかもわかりませんが。
■ 7.六人の嘘つきな大学生(朝倉秋成)
同じミステリの『硝子の塔の殺人』と比べてしまうと、ミステリ内ジャンルが違うとはいえ、少し見劣りしてしまう部分があったかな、と個人的に感じました。
■ 8.残月記(小田雅久仁)
ゴリゴリのファンタジーなので、読み切れなかった…という人が一定層出そうな作品だと感じました。世界観にはめちゃくちゃ浸れますよ…。
■ 9.星を掬う(町田そのこ)
昨年、本屋大賞を受賞された町田さんですが、昨年の凪良さん同様、ややそのことが不利に働くかなぁと思いました。
何より、掬い方は見事な作品なのですが、いかんせん重すぎる…。
■ 10.夜が明ける(西加奈子)
これも濃厚な物語を堪能できますが、いかんせん重すぎる…。
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■ まとめ
今回は私の中で横並びが多すぎて、なかなか難しい予想立てでした。
途中でも書きましたが、1~6位までの予想の作品が大賞となったら、『そうだよね~』という感情になりますし、7~10位予想の作品も全然可能性があると思います。
それくらい、魅力的な作品たちに出会えた2か月間でした。
本屋大賞、どうもありがとう。発表を楽しみにしています。