ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

2022年の本棚

2022年も終わりですね。

 

今年は、前半は2021年の勢いそのままに引きこもってひたすら本を読んでいました。一方、後半は居住地の変化があったことをきっかけに生活スタイルが少し変わり、特に理由はないものの本を読まない期間もあったりして、ペースとしては大分落ちました。

 

さて、今年一年間で読んだ本は、32冊+α。う~~ん微妙!まぁ、たくさん読むことを目的には全くしていないので、自分のペースで読書と向き合えたという意味では今年も良い一年でした。

 

今年の読書テーマとしては、ほぼ2021年を受け継ぎ、『文学賞』と『新しい出会い』であったと思います。

 

まずは『文学賞』から。

今年も本屋大賞ノミネート10作を、発表前に読むことができました。これは続けられる限り続けていきたいなぁと思っています。それから、本屋大賞直木賞芥川賞の歴代受賞作を読み漁ったりといった部分もありました。

そして何より、文学賞と呼んでよいのか分かりませんが、ほんタメ文学賞のお蔭で斜線堂先生と出会えたことが今年一番の収穫だと思っています。

 

そして『新しい出会い』です。

去年は、好きな小説家さんが好きな小説家さんへ拡げることでコスパ良く出会っていきました。一方、今年は偶然の出会いを求めて、なんとなくご縁を感じる本をなるべく前情報なしで買って読む、というのが多かったです。芝木好子さんや絲山秋子さんなど、ステキな出会いがありました。

 

さて、前置きはこのくらいにして、今年も誰にも頼まれていないのにオススメ作品紹介をしたいと思います。

 

今年は読んだ冊数も少なかったので、オススメ10選に何とか絞れました。なお、対象は『私が2022年に読了した小説』となりますので、この時点で偏りが酷いことには予めご了承ください。

 

また、選出ルールとしては1作者1作品までという形式を取っています。また、一応紹介するという目的なので、私基準におけるネタバレは入れないようにしています。

 

それでは行きましょう。

 

 

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■ invert Ⅱ 覗き窓の死角(相沢沙呼

城塚翡翠シリーズの最新作です。私個人としてはこれまで倒叙ものにきちんと触れる機会がなかったのですが、『探偵の推理を推理すること』の魅力を存分に味わうことができていますし、城塚翡翠という人の魅力で読ませる名作です。

最近、mediumから始まりinvertに続く形でドラマ化がされまして、原作厨大歓喜の最高のドラマ化だったのでよければそちらも。

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■ 月の立つ林で(青山美智子)

2023年の本屋大賞、第1位おめでとうございます!!(素振り)

2021年の本屋大賞で出会ってから何冊か読ませて頂いていますが、とにかく元気を貰える作品が多く、本作はその中でもオシャレさと神秘さに磨きがかかっています。次こそ大賞を獲ってほしいので素振りしておきました!!!!!

月にまつわる知識も頂けます。『お天道様』が一番すき。

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■ 正欲(朝井リョウ

本屋大賞で出会いました。朝井リョウさんの作品は初めてだったのですが、今年のノミネート作の中で一番頭をぶん殴られた作品です。多人数視点での描き方が上手すぎて感銘を受けました。読む前の自分には戻れません。

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■ くるまの娘(宇佐見りん)

『推し、燃ゆ』と『かか』で宇佐見作品の虜になった私をダメ押しするような作品でした。"家族"というテーマについて、前2作よりももっと深い所まで潜っていって、もっと混沌としていて正解のない世界を突き詰めて描いてくれています。

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ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻(P.G.ウッドハウス岩永正勝小山太一編訳)

王道どまんなかの傑作です。ポンコツ主人と賢明な従僕というコンビが活躍していきますが、しっかりキャラクターにも人間味を感じられるので、物語として思いっきり楽しめる作品だと思います。海外文学が苦手な方でも問題なく楽しめると思います。

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■ 芝木好子小説集 新しい日々(芝木好子)

完全に装丁で買った作品なのですが、運命的に私の好みをドストレートについてくる作品でした。本作はいわゆる戦後の時代において新しい日々を送らんとする人々の生活が綴られています。『脚光』が一番すき。

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■ 走馬灯のセトリは考えておいて(柴田勝家

私はほぼSFを読まないのですが、何故か手が伸びるのが柴田勝家殿の作品です。本作はそこまでSFSFしすぎてないので、普段SFを読まない人にもオススメです。タイトルや、『"この世"を卒業するバーチャルアイドルのラストライブ』というパンチワードに惹かれる方はぜひ騙されたと思って読んでくださいな。

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■ 愛じゃないならこれは何(斜線堂有紀)

ほんタメというYoutubeチャンネルの文学賞に選ばれたのがキッカケで手を取った作品です。私の心のど真ん中を打ち抜く恋愛地獄小説でした。恋愛を主とする強い感情に勝つことができずに、わかっているのに地獄へと突き進んでいく物語です。『ミニカーだって一生推してろ』が一番すき。

最近『君の地球が平らになりますように』という続編も出たのでぜひぜひ。

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舟を編む三浦しをん

本屋大賞受賞の傑作、お仕事小説になります。辞書を作る仕事という、これまで触れたことのない分野の中で展開されていく人間ドラマ、非常に王道ですが新鮮な作品でした。全く知識のない人でもスルッと入っていける敷居の低さとそれでいてディープな世界観が共存しています。

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火車宮部みゆき

宮部みゆきさんの本拠地である社会派推理小説の代表作なのだと思います。宮部みゆき作品は例外なく分厚いのですが、物語の盛り上げ方が異常に上手く、一気に読みたくなる不思議な作品です。お金の問題に直面した登場人物たちの切実な想いがリアリティをもって描かれています。

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■ 万人にオススメしたい度ナンバー1

今回挙げた10作はどれもオススメである、という前提の上で、人にオススメするために一つ選ぶのだとすれば、青山美智子さんの『月の立つ林で』です。次点で『舟を編む』かな~。

去年も青山美智子さんを選ばせて頂きました。本当に青山先生の作品は万人にオススメしたくなる作品です。

 

■ 個人的に読んでよかった度ナンバー1

これは問答無用で斜線堂有紀さんの『愛じゃないならこれは何』です。いまだに、私は本作をどういう感情・共感でもって推しているのかイマイチ分かっていないのですが、とにかく斜線堂先生の地獄小説からしか摂取できない栄養素があって、どんどん供給してくれ、そういう気持ちです(語彙力)。

 

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今年も楽しく生き抜くことができました!

「おいしいごはん」とは?

高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』を読みました。

 

本作はつい最近、芥川賞を受賞されています。帯文も『心のざわつきが止まらない。最高に不穏な傑作職場小説!』となっており、食べものもテーマで非常に私好みっぽいので手を取りました。純文学にちょっとだけ慣れてきたので、軽率に手を出しても大丈夫だろうと思ったというのもあります。

 

読了直後の感情としては「はぁ~~?すごすぎる…」でした。この独特で言語化が難しい読後感情と感想は、やっぱり純文学ど真ん中だからだし、これが良さなんですよね~。純文学に慣れてきていなければ「???」で終わっていたと思うので、自身の成長?も実感できました笑。

 

文章のテイストとしては癖がなくて読みやすく、一見して純文学にはみえませんが、内容と展開はもう…。この誰にも感情移入しきれない絶妙な感じ、共感したくない感情に共感してしまう感じ、めちゃくちゃ芥川賞なんですわ…。

 

本作が2022年読書の読み納めとなったわけですが、チョイスは完全に間違えました笑。この感情を引きずって年を越さねばならぬのだ…。

 

では、以下はネタバレありで感想を書いていきます。

 

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残念ながらうまく言語化できないと思いますが、断片的に今思ってることを頑張れる範囲で書いていければと思います。

 

■ 食に対する価値観

本作は"食"が一つのテーマになっています。仕事や恋愛に対する価値観が人それぞれであるように、食に対しても人それぞれの価値観があるし、なんならその人の大元の価値観が一番よく表れているような気もしました。

芦川と居るときと押尾と居るときで食に対するスタンスが変わる二谷が特に象徴的でした。

 

■ 絶妙に感情移入しきれない登場人物たち

現実にガッチリハマる人はいないんだけど、非常に既視感を感じる登場人物たち…。理解できた気になった次のシーンでは一気に突き放されるこの感じ。自分の中にある嫌な感情を引きずり出されて共感せざるを得ないこの感じ…。

 

■ ラスト

このラスト、めっちゃ純文学よな…。すれ違いは何にも解決していない、善も悪も何も区分けされず、断罪もされていない。ただただこのまま人生が連続的に続いていくんだろうな、というこの感じ。妙にリアルなんですわ。

 

■ 印象的な表現

文体や表現はそこまで癖がないのですが、それでも印象的な表現が所々で見られました。

 

なるべくちゃんとしていない、体に悪いものだけが、おれを温められる。

p123。食は精神にも影響するので栄養素がすべてではない…。

 

甘いのが好きとか苦手とか、~(中略)~、おいしいおいしいって言い合う、あれがすごく、しんどかったんだなって、分かって。

p142。なるほどねぇ…確かに、他の趣味とかと違って食って謎の神聖視があるよね。私はたとえそうでなくても美味しめちゃえば勝ちだと思ってるけど。

 

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純文学は感想を書くのが難しすぎます…。

とにかく感情を揺さぶられる印象的な作品でした。

月の立つ林で

青山美智子さんの『月の立つ林で』を読みました。

 

私の中でのホッコリ枠大筆頭、青山さんの最新作です。本屋大賞にて連続で2位を取られていて、そういった意味でも今作を楽しみにしていました。

 

本作も、青山さんお得意の連作短編集ですが、これまで以上にオシャレさと神秘さが磨かれていて、帯に書かれている"青山美智子最高傑作"に偽りなし!と思いました(まだ青山作品網羅できてないけど)。

 

青山さん作品は、絶妙な繋がりがいいのですよ~~。直接的ではないけれど、前半の登場人物たちのその後が意外な所で見え隠れしたり…。

 

特に本作は、月が一つの大きなテーマになっています。前作『お探し物は図書室まで』でも月がテーマの短編が一つあり、それをキッカケに少し月に関して知識を蓄えた状態だったので、本作がより沁みた気がします。

 

では、以下は短編ごとにネタバレありで書いていきます。

 

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■ 誰かの朝

職業に基づく偏見はほんとやめてほしいよね…でも私もついやっちゃうし、ある意味ではコミュニケーションの円滑化には貢献するので、こういうのは防御もだいじ…。

「朔」という言葉には個人的に思い入れがあるのですが、勝手に字面で思っていただけなので、"新月"という意味があるのには非常にびっくりでした。本作では"新月"が大事な意味を持っているだけに、なんだか嬉しい気持ちになりました。

ラストにかけての心情変化描写が丁寧ですきです。立ち止まってしまった人が再び一歩を踏み出すお話が大好きな私にはドンピシャでした。

 

■ レゴリス

本作に限らないけれど、SNSを代表とするインターネット上の緩い関係性というのが、現実の人間関係では踏み込めないところを優しく支え合ってくれているのが、現代を非常に的確に捉えているなぁと感じました。ポッドキャストもそうだし、後半でも効いてくるけど「夜風」との関係性など。

 

■ お天道様

これ一番すきかも。

『お探し物は図書室まで』でもあったと思うけど、おじ様主人公を描くのも非常に上手いなぁ…。ちょっと頑固めなんだけど、新しい知識や価値観をまっすぐに受け止めることができるよいおじ様だよ…。

亜弥からの電話でオロオロ泣いた。最近の涙腺は全く耐えてくれませぬ。

『大丈夫だよ。おまえ、もうじゅうぶん、いいお母さんだ』

この返しができる考えの持ち主になりたい。

千代子を月の女神様に例えるラストもすてき~~。

 

■ ウミガメ

これも青春要素強めですき。

『ただ誰かの力になりたいって、ひとりひとりのそういう気持ちが世の中を動かしているんだと思う。』

これは私の好きな恩送りに近い考え方だと思います。もっと恩を送っていこうぜ~~。

 

■ 針金の光

ここでminaが主人公になるのはまさしく連作短編集の妙技ですね。

我々は本当の意味で分かりあうことなどできないのだけれども、それでも分かり合おうと言葉で伝えようとすることをやめてはいけないんですよね。今の私にとても刺さります……。

そして裏で本作を支えていた『ツキない話』の伏線回収…!めちゃくちゃ綺麗です。連作短編としての完成度も高いですし、短編なのにしっかりカタルシスを感じられる。

 

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全体を通して、月の満ち欠け、特に新月に対して自身の立場をシンクロさせながら前に進む、月に力を貰っていくお話で、読んでいてとてもパワーを貰えるお話でした。

ぜひ、ぜひとも、本作で本屋大賞を獲っていただきたいです…!!!!!!!!!

君の地球が平らになりますように

斜線堂有紀さんの『君の地球が平らになりますように』を読みました。

 

本作は、私が今年読んだ中で圧倒的トップに君臨し続けている『愛じゃないならこれは何』の系譜となる、斜線堂先生の恋愛地獄小説第二弾です。

 

『愛じゃないなら~』がぶっ刺さった私だったので、私の中では読む前から否が応でもハードルが上がりまくっていたのですが、心配ご無用でした。本作もそのハードルを軽々と飛び越えるぶっ刺さり作品集でございました。私の好みドストレートを往くやつでした。

 

ベースの感想は『愛じゃないなら~』の方に書いているので割愛しましょう。

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どの短編も最高なのですが、あえて個人的一番を選ぶなら『「彼女と握手する」なら無料』です。"推し"に対するスタンスの掘り下げがすごかったです。

 

先日参加させて頂いた、柴田勝家殿との合同トークショー『池袋の乱』にて、第三弾へと続くことが明言されたので、私は非常にハッピーです。斜線堂先生にはもっともっと地獄小説を量産していただきたい……!!

 

では、以下では短編ごとにネタバレありで書いていきます。

 

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■ 君の地球が平らになりますように

本作についてはweb公開のタイミングで読んでしまっていたのですが、こちらも再読しました。

小町の東に対する感情がどんなものなのか見えてこない状態で淡々と進むちょっとした恐怖展開ののち、ラストに明かされる経緯と爆発する小町の感情、石が小町の手の中にもあったのだという展開が切ない。

そしてラストの一文の情緒がすごすぎる。バッドエンド感がたまりません。

 

■ 『彼女と握手する』なら無料

まさかの東グレ繋がりが嬉しすぎました!前作は『ミニカーだって一生推してろ』が一番刺さったので…。本作もアイドル活動というものを通じて、"推されること"がテーマになっていて非常に興味深かったです。

『数秒間だけ恋に落ちている。』なるほどね……。そういう解釈もアリなのか(アリなのかは知らん)。でもそのスタンスによって、推す側との意識のギャップに押しつぶされていくのが本作ですね。

辛さを補うために孝徳という存在に縋ったものの、自分は『めるすけ』と恋がしたかったのだと気づく…。『ミニカーだって~』との対比が綺麗だわ…。

それを自覚したうえで、自分が求めているものは孝徳はくれないと分かったうえで、それでも好きになりたいと思い、信じ願うのが結婚、と…。う~~んうまく言葉にできませんがこの落としどころのセンスがヤバすぎます。ここも『ミニカーだって~』との対比が綺麗!!!

今後も東グレシリーズ続いてくれると私が嬉しいです。

 

■ 転ばぬ先の獣道

本作も、先行してweb公開されていたものを読んでしまっていましたが再読し、もう一回刺されました。

前回の感想でも書きましたが、この先がめちゃくちゃみたい作品だし、トラという地獄を選ぶ月子をみてみたい気もする。自分をトラにチューニングできれば解決なんだろうけど、なかなかそうはいきませんね。このあたり表題作と似てるかも。

 

■ 大団円の前に死ぬ

これもめっっちゃ良かった~~。ホストにまつわるこういう世界があるのは何となく知っていたけど、その真髄を見た気がします(本作はあくまでフィクションなのでこれを現実ととらえるでないぞ私)。

本作はとにかくタイトルセンスが光りますね。序盤は、大団円の前に(主に金銭的に仁愛が)死ぬって意味で捉えている所で、大団円の前にお姉さんが死んでしまうんだもんなぁ…。

これも締めの一文の情緒がすごすぎます。

 

■ 平らな地球でキスはできない

これ難しいな~~。たとえ今がどうであれ、過去のステキな出来事はステキな出来事のまま取っておけると思っていたけれど、こんな風に苦しみに変わってしまうこともあるのだな…。仮に桃華が地獄を選んだ場合に、どういうアプローチをとるのかは非常に気になりました。

それにしてもラザニアのくだりが切ねぇです…。

 

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『愛じゃないならこれは何』に負けるとも劣らず、私の心をぶっ刺してくる作品でした。今年は斜線堂先生に出会えたのが読書における一番の収穫だと思います。

 

第三弾も気長にお待ちしております!!!!!!!!!!!

"この世"を卒業するバーチャルアイドル

柴田勝家さんの『走馬灯のセトリは考えておいて』を読みました。

 

柴田勝家さん(相変わらず名前がややこしい)の作品は、私としては3作目でしょうか?私は普段SFを読みませんが、不思議とこの方の作品には手が伸びます。おそらく、私が文化人類学や推し・信仰に対して興味を持ちやすく、柴田さんはこれらとSFを混ぜ合わせた作品が多いからだと思います。

 

さて本作は何といっても、この強烈なタイトルですね。正直このネーミングは天才だと思います。そして設定も、『"この世"を卒業するバーチャルアイドルのラストライブ』という話で、非常にぶっ飛んでます。それなのに、それなのにですよ、名前負けも設定負けもせず、非常に完成度の高い作品を持ってこれるのだから感服です。

 

本作は短編集で、比較的SFSFしてない作品が多いので、普段SFを読まない人にもおすすめです。どの短編集もよいですが、個人的にはやはり表題作の『走馬灯のセトリは考えておいて』がずば抜けていると感じました。次点で『クランツマンの秘仏』かな~。

 

解説も現役のVtuberさんが書かれていて、非常に解像度の高い解説で満足度が高かったです。"推すこと"に対する解釈が私と同じすぎました。

 

それでは、以下はネタバレありで書いていきます。

 

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短編ごとに書いていきます。

 

■ オンライン福男

これも発想が天才。こんな設定で妙なリアリティを演出できるのは、文化人類学のおかげ(?)なんだろうなと思っています。

オチも見事としか言いようがありませんし、合間合間の小ネタも無駄に洗練されていて終始笑いながら読めました。

 

■ クランツマンの秘仏

"信仰が質量を持つ"とはどういうことかを丁寧に描いた作品です。一見突飛な設定に見えて、妙に説得力のある論調にできるのは、文化人類学のおかげ(?)なんだろうなと思っています(2回目)。

信仰/祈りに関して、その要はあくまで信仰すること/祈ることという行為にこそあるという主張から来る発想なのかな。だからこそ、行為と辻褄があうように対象の方が書き換えられていく。これは確かにそうなのだろうと思います。

 

■ 絶滅の作法

仮想的に再現された地球において人間の生活を模倣する宇宙生命体のお話です。妙にオシャレな雰囲気を漂わせていた。

こうやって振り返ってみると、前2作との共通点が見えますね。実態がどうであるかはあまり重要ではなく、行為とそれに伴って得られる自分の感情にこそ主眼が置かれるべきである、ということかな。

 

■ 火星環境下における宗教性原虫の適応と分布

この作品はずば抜けてSFSFしていたと思います。個人的にはちょっと読むのが大変でした。やはりゴリゴリのSFはまだ私の範疇ではないようです。

とはいえ概念自体は共感できるもので、宗教の伝播を宗教性原虫による影響と解釈し、火星における宗教の変遷を追うような物語でした。

 

■ 姫日記

正直に書いてよいとするならば、個人的には本作は別の短編集に入れる、またはおまけにすべきではなかったか…と思いました。テーマが他作品と同じであることは分かるが、雰囲気が余りにも異質でした。常に作者の顔(VRゴーグルをつけた例の顔)が浮かんでくるような作品でした(笑)。

場所が違ったのではと思っただけで、作品自体は作者の価値観を堪能できる良作だと思います。クソゲーに幸あれ。無駄な時間を楽しんでこその人生だよね。

 

■ 走馬灯のセトリは考えておいて

まず発想が天才すぎる。いや、私が普段SFを読まないせいなだけで、SF業界ではよくある設定なのかもしれませんが。

設定自体は一番SFっぽい感じでしたが、説明が丁寧だったのと、結構しっかり物語調(語り部がしっかりしている)だったので、世界観を十分理解しながら読むことができました。こういう世界が実現するのも、少なくとも技術的にはそう遠くない世界だと思えるからということもあるかも。

そのうえで、この設定を150%活かしたストーリーでした。SF的な面白さであるのかどうかは分かりませんが、少なくともSFでしか描けないものではあったはずです。

それから展開の仕方が上手い。普通に終盤泣きました。父親の状況や、手を合わせる癖の削除など、うひょ~~って感じでした(語彙力)。

本作でも信仰/祈りについてがテーマになっています。ライフキャストはある意味で信仰/祈りという行為を保存しておくためのものでもあるような気がします。その対象としても行為者としても。

 

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最期に、解説の一節が好きすぎるので、これを引用して締めたいと思います。

 

信仰とは生への不安感を解消し安寧を得るための手段であり、なかでも他者を推す=祀るロールは人生をやり過ごす効果的な酩酊ツールです。その感情が酩酊であると分かっていても、全ての信仰を棄教して生きるには人生はあまりに長く、全てに醒めて生きるメリットはあまりに少ない。

 

鍵のない夢

辻村深月さんの『鍵のない夢を見る』を読みました。

 

直木賞受賞作ということで手が伸びました。最近、"文学賞受賞"の文字に弱くなっています。辻村さんの作品はいくつか読んでいますが、読んだものはミステリ作品が多く、本作のような雰囲気の作品は個人的に新鮮でした。

 

しかもまぁ内容が非常に私好みでした。女性たちの暗転を描いた短編集で、私の好きな彩瀬さんや町田さんの作風に近いです。何より、いまこの年代で読むことができたのはとてもタイミングが良かったなと思いました。

 

短編集で話の繋がりも特にないのですが、謎の一体感を持っていて、ラストにかけてうなぎ登りで盛り上がっていくつくりになっていました。ここは個人的に辻村さんらしさが出ているなと感じました。結構超大作も沢山描かれている方なので、このあたりの調整が上手いのだろうなと思います。

 

個人的には『美弥谷団地の逃亡者』と『芹葉大学の夢と殺人』が特に好きです。

 

では、以下はネタバレありで書いていきます。

 

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短編ごとに感想を書いていきます。

読んでから暫く経ってしまったので思い出しながら簡単に…。

 

■ 仁志野町の泥棒

あまり本筋ではないかもしれないが、自分の中で過去の人になってしまっている人(失礼)の今現在を、偶然SNSなどで目にした時と同じ気分だろうか…。

 

■ 石蕗南地区の放火

この作品は私に刺さる。こういう恥を、私は常に恐れている気がします。

 

■ 美弥谷団地の逃亡者

前半の美衣のぼんやりした雰囲気が、作品構造のためでもあったと思うけれど、倒れた母親を見てからラストにかけて、ずっと現実を受け入れられないでいたのかな、と思いました。ラストでようやく受け入れられたのかな。美衣の感情をもっと追いたいなと思わせてくれる作品でした。

 

■ 芹葉大学の夢と殺人

これは結構、斜線堂先生の地獄小説と通ずる所があって非常に好きです。理由は全く分からないのですが、ダメダメ彼氏を捨てきれない話が結構すきなんですよね…。

この作品も未玖の心情変化が激しく、それを追うだけで楽しいですが、ラストの祈りは非常に愛が深いなぁと思いました。

 

■ 君本家の誘拐

いつかの未来にこの作品を思い出しそうで怖い。できることなら早く忘れたい、そう思うくらいには後味悪めです(褒めてます)。

 

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新鮮な辻村さんをみました。辻村さんもジャンルが幅広いお方であるということがよく分かりました。これからもポツポツと読んでいけたらいいな。

城塚翡翠の生き様について

相沢沙呼さんの『invert Ⅱ 覗き窓の死角』を読みました。

 

城塚翡翠シリーズ(?)、待望の第三作目です!二作目に続いて倒叙ものの中編2つという構成ですので、二作目『invert』を楽しめた方には是非オススメしたいです。

 

↓2作目『invert 城塚翡翠倒叙集』感想

sugatter315.hatenablog.jp

↓1作目『medium 霊媒探偵城塚翡翠』感想

sugatter315.hatenablog.jp

 

話の展開としても、まだまだ続いていきそうなシリーズですし、非常に私好みの展開になりそうな予感がするので、今後も気長に楽しみに続編を待ちたいと思います!

 

本作は何を書いてもネタバレになるので、以下ネタバレ要注意です。

本作単体でということではなく、シリーズ一作目二作目の核心に触れざるを得ない部分もありますので、重々ご注意ください。

 

 

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■ 魅力概略

私が二作目で感じていた魅力は、三作目にもしっかりと引き継がれておりました。二作目感想と全く同じことを言いますが、魅力は大きく分けて2つ、『探偵の推理を推理すること』と『城塚翡翠の人間味』です。

 

■ 魅力①『探偵の推理を推理すること』

翡翠がどういった論理で犯人を特定し、追い詰めるのか、を我々読者が推理するという構図は変わらず、新しいトリックで以て楽しませてくれました。

 

この魅力は『生者の言伝』の方で顕著だったと思います。ほぼほぼ蒼汰くん目線で話が進んでいくので、翡翠のあざとすぎる行動の意味を推測しながら読み進めるのが楽しかったです(笑)。さすがに蒼汰くん相手ではオーバーキル感があったなぁと思っていて、蒼汰くん廻りの伏線は(翡翠の示唆ありで)気づけましたが、核心となる別犯人は全く予想できていませんでした…。

 

『覗き窓の死角』については、割と翡翠側パートも多く、彼女も行き詰っていたので、一緒に考えていくような構図だったと思います。というか、純粋にトリックレベルが高かったな…。朝じゃなくて昼に殺した可能性は微塵も予想できていなかった…。財布にしまったはずの半券チケットがポケットから出てきたのは気づけましたが、それが示すトリックには微塵も思いつかなかったよトホホ…。

 

そして、トリック自体はガチガチのやつなんですが、会話劇や差し込まれる描写はとてもエンタメ的で、全体としては固くなりすぎず、このバランスが絶妙ですきでした。

 

■ 魅力②『城塚翡翠の人間味』

これも二作目感想と全く同じことを書きますが、これこそが私が思う本シリーズ一番の魅力であり、『城塚翡翠は何者か?』が柱となる謎だと思っています。

 

本作では、二作目よりももう一歩踏み込んだ印象で、割と素直な翡翠の感情が見えていたような気がします。

特に『覗き窓の死角』では、冒頭の詢子との素に近いやり取りだったり、真との距離感に悩む様子など、対外的な城塚翡翠像とは異なった面を多く見ることができました。

また、城塚翡翠の生き様というか信念についても割とまっすぐにみることができたのかなと思います。

 

謎そのものについては、翡翠の過去や真との経緯など、メインとなる部分からはまだまだ遠いですが、弟の存在、大切な人を失くしたと思われるような描写、奇術の師と思われる人の存在、警察との関係性など、伏線がゆっくりと増えてきました。

詢子とのやり取りで、過去に写真を撮りたいと言ってくれた人がいると話すくだり、個人的には詢子の犯罪にもう気づいていて詢子のことを言っているのでは!?!?!?と思ってしまいましたが、そうではなかったようです(笑)。つまり、本当に過去にそういう方とのかかわりがあったとみるべきでしょうか。

 

■ 個人的にすきなシーン

個人的にすきなシーンを2つほど引用したいと思います。

 

そんなときこそ、この奇妙な友人を支えてやるのも、自分の役目なのだろうと思う。

p257の真の描写です。翡翠からは真を友人と言ってよいものか悩んでいる描写が多くありましたが、真からは迷いなく"友人"と呼んでいることにエモさを感じました。私が気づいたのがここというだけで他にもあったかもしれないのですが。

真の活躍や解像度も上がってきており、よりホームズとワトソンとして関係性が強固になってきているように感じます。

 

『でも……、その好奇心と正義心を抱くことができれば、助けを求める誰かを救うことができるかもしれないのです。~(中略)~』

p350翡翠の台詞です。翡翠の中での"正しさ"がまっすぐに表れていると思います。翡翠さん、あんたは強いなぁ…。純粋に尊敬です。

 

■ まとめ

今まで以上にかなりライトな描写(適切な表現が分からない)も多かったですが、これこそが翡翠の戦略でもあり、また王道・本格の叙述ミステリでありながらもエンタメ性が高く敷居が低いのは、こういったキャラクター性のおかげなのだろう、と思います。

 

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これからも、城塚翡翠の生き様を見届けたいです。いつでもいいので、待ってます!!!!!