ずっとお城で暮らしてる

趣味にまつわる記録簿です。小説の感想がほとんどです。

2021年の本棚

2021年も終わりですね。

 

今年は、去年に増して外に出ず、引きこもって読書ばかりしていました。本当に文字通りそうなのです。休みの日にやっていることを他人から聞かれても『本を読んでいます』としか答えられず、適当言って誤魔化そうとしている風に聞こえるのが最近の悩みのタネです。本当に読んでいることが伝わっても、一年を通して変化がないので、いつ聞かれても回答に変化がないのは本当にごめんなさい。

 

さて、今年一年間で読んだ本は、45冊+α。読書メーターに記録したマンガ以外の冊数です。記録していないものも数冊あったと思うので+α。あれ、去年よりは増えているものの、本しか読んでいないと言った割には…。

 

今年の読書を振り返ると、テーマは二つ、『文学賞』と『新しい出会い』でした。

 

まずは『文学賞』から。

今年、はじめて本屋大賞ノミネート10作を、大賞発表前にぜんぶ読むというのをすることができました。無理したわけではないですが、締切を意識して本を読むというのも緊張感があって新鮮でした。本屋大賞は本当にジャンルの幅が広くて、私がこれまで手に取ったことのないようなジャンルの作品とも出会うことができました。

 

それから、『そして、バトンは渡された』(本屋大賞)や『人間に向いてない』(メフィスト賞)、『かか』(三島由紀夫賞)など、文学賞受賞作を意識的に手に取って読んだ一年でもありました。各文学賞の色についても、ほんのりと分かってきたような気がしています。

 

そして、『新しい出会い』です。今年は好きな小説家さんが倍増した年でした。

 

まずは一つ目と被りますが、本屋大賞ノミネート作読破によって、青山美智子さん、伊吹有喜さん、町田そのこさん、等々、新しく触れた方々が多くなりました。

 

それから、私の好きな小説家さんが好きな小説家さんの作品を、意識的に読みました。これが、自分も好きになる可能性が高く、かなりコスパが良くてオススメの拡げ方です。私はこれで、田辺聖子さん、山本文緒さんに出会うことができました。

 

さて、前置きが想像の10倍くらい長くなりましたが、去年の自分に倣って、今年のオススメ作品を紹介したいと思います。

 

去年の自分は偉そうにランキング化していますが、今年はありがたいことに読書体験の方向性が異なる作品が多く、おなじ物差しでは到底計れない状況です。

 

このため、順位はつけずに、オススメ15選!ということにします。…10選のつもりだったのですが、収まらなくなってしまいました。

 

対象は、『私が2021年に読了した小説』です。『2021年に発売された小説』ではございません。この時点でお察しかと思いますが、完全に私の都合と偏見が入りまくったオススメリストですので、ご容赦ください。

 

選出ルールとしては、米澤先生の書評に恐れ多くも倣って、1作者1作品ずつ、という形式を取りたいと思います。作者のあいうえお順で紹介していきます。最期に、個人的ナンバー1だけはピックアップさせて頂きました。

 

あと、一応この記事はオススメということで誰かに読まれてることを想定しているので、これで興味を持った作品について、読んでみてもらえれば、と思っています。なので、本記事では私基準でのネタバレは一切しないようにしています。というか、あらすじもまともに書いていないので、フィーリングで選んでいただく用です。また、検討しやすいかなと思って単行本(値段が高い)か文庫本(お手頃)かを明記しています。

 

それではまいりましょう。

 

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■ 同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)

・単行本

【オススメポイント】

稗史としての第二次世界大戦を濃厚体験するのにオススメです。人物の描写が丁寧で、強いメッセージ性もありつつ、エンタメとしても非常に楽しめる一作です。分厚いです。

 

【感想記事】

 

■ invert 城塚翡翠倒叙集(相沢沙呼

・単行本

【オススメポイント】

『medium』の続編なので、『medium』を読んで城塚翡翠の魅力に取りつかれた方にオススメです。倒叙作品(犯人視点で進む推理小説)です。城塚翡翠の人間味を感じることができる大満足の作品です。

 

【感想記事】

 

■ お探し物は図書室まで(青山美智子)

・単行本

【オススメポイント】

本を読むのにパワーが要る人にオススメです。本作を読むのにパワーは必要なく、ただただ回復魔法をかけてもらえます。でもしっかりと心の深い所を刺してきてくれる作品です。若手社会人の方には、特にオススメです。

 

【感想記事】

 

■ 草原のサーカス(彩瀬まる)

・単行本

【オススメポイント】

彩瀬さんが隣で一緒に考えてくれるような作品です。彩瀬さんの長編でないと摂取できない栄養素があると思っています。コロナ禍にも寄り添った作品です。

 

【感想記事】

 

■ 彼方の友へ(伊吹有喜

・文庫本

【オススメポイント】

戦前~戦中~戦後を"想い"で生きる人々のお話です。朝ドラ好きな人は好きになると思いますのでオススメ。

 

【感想記事】

 

■ 推し、燃ゆ(宇佐見りん)

・単行本

【オススメポイント】

"推し"という概念に理解のある方全員に読んでいただきたいと思う一方、非常に"芥川賞"な作品です。純文学にある程度なじみがあった方がよいかも。圧倒的な芸術性の高さとエンタメ性の無さで、終始重い雰囲気が流れています。

 

【感想記事】

 

覆面作家シリーズ(北村薫

・文庫本

【オススメポイント】

すみません、これだけシリーズものでの選出です。『覆面作家は二人いる』から始まり、『覆面作家の愛の歌』へと続き、『覆面作家の夢の家』で締めくくられます。ザ・北村薫なミステリ要素と、シリーズものとして最高のオチが待っています。

 

【感想記事】

 

■ ニルヤの島(柴田勝家

・文庫本

【オススメポイント】

私にとっては新鮮だったSF王道作品です。DNAコンピュータ、ミームコンピュータなど、SFを読まないと出会えない概念に出会えます。決して読み終わるまでは作者の顔を見ない方が良いです。

 

【感想記事】

■ そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ

・文庫本

【オススメポイント】

家族の在り方について、もっといえば、人と人との関係性の在り方についての物語です。主人公には親がいっぱい居ますが、逆境を乗り越える物語では決してありません。

 

【感想記事】

 

■ 応えろ生きてる星(竹宮ゆゆこ

・文庫本

【オススメポイント】

竹宮ゆゆこ入門として強くオススメします。ラノベチックな文体が好きな人だとより楽しめるかも。ハイテンポな恋愛小説です。

 

【感想記事】

ジョゼと虎と魚たち田辺聖子

・文庫本

【オススメポイント】

沁みる短編集です。昭和の頃に書かれた恋愛小説がこんなに今の私に響くなんて…。『うすうす知ってた』は私にとっては化け物級の作品でした。

 

【感想記事】

侍女の物語マーガレット・アトウッド斎藤英治訳)

・文庫本(だけどお高め)

【オススメポイント】

将来現実となるかもしれない、ディストピア世界に没入できる作品です。また、描写力のえげつなさを堪能できます。ヒューマンホラー的な要素もあるので、ホラーや不穏で救いのない雰囲気が好きだとより楽しめるかも。

 

【感想記事】

 

■ 夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田そのこ)

・文庫本

【オススメポイント】

タイトルと書きだしのオシャレ具合が限界突破しています。『カメルーンの青い魚』の完成度の高さがすごいです。切ないけれど、一滴の希望が混じっています。

 

【感想記事】

■ アカペラ(山本文緒

・文庫本

【オススメポイント】

一言では言い表すことができない情愛の関係性がテーマとなった中編集です。この言い表しにくさがいいんです。個人的には表題作が一番すき。この人は天才だと思った作品です。ご冥福をお祈りいたします。

 

【感想記事】

 

■ 黒牢城(米澤穂信

・単行本

【オススメポイント】

戦国×ミステリという異色の組合せの物語です。大河ドラマが好きな人には特にオススメしたい。ミステリのための時代小説ではないし、時代小説のためのミステリというわけでもない。ミステリであり、時代小説であり、この2つの楽しさを1度に味わえる大満足の作品です。

 

【感想記事】

 

■ 個人的ナンバー1

【あらゆる人にオススメしたい度ナンバー1】

今回挙げた15作はどれもオススメですが、とりあえずジャンル指定なしで一つオススメしろ!と言われて差し出すのは、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』でしょうか。

普段小説を読まない方や、重い話や暗い話が苦手な方にもしっかりとオススメできます。本屋大賞も2位ということで、私以外からのお墨付きもありますよ。

 

【個人的に読んでよかったナンバー1】

田辺聖子さんの『ジョゼと虎と魚たち』に収録されている、『うすうす知ってた』です。読んでよかったというか、読んで以降、常に頭の片隅にこの小説が存在していて、時々思考を支配してきます。

このままこの小説を抱えて生きていくのも良いと思う一方、そろそろボトルネックを通り抜けて、次の人生の封を切りたいとも思っています。

 

 

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今年もよい一年でした。

だれかのいとしいひと

角田光代さんの『だれかのいとしいひと』を読みました。

 

これも、誰か(たぶん小説家さん)がどこかでオススメしていて読んだのですが、まったく思い出せない…。角田光代さんとは初対面です。表紙すてきですね。

 

恋愛を描いた短編集です。短編ごとに味があるので一言では纏められませんが、どちらかというと切ない系でした。この人の長編を読んでみたいな、と思いました。

 

え!この感情って言語化できるんだ!という作品ばかりで、大満足でした。書かれたのはだいぶ昔だと思うのですが、古い雰囲気はまったく感じられないのがすごいです。

 

一番すきなのは『バーベキュー日和』。これ好きな人多いのではないかな。

 

では、以下はネタバレありで短編ごとに書いていきます。

 

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【転校生の会】

転校生の会に参加することで転校生の疑似体験をするような、面白い作品でした。バスのたとえがとても好き。

 

【ジミ、ひまわり、夏のギャング】

雰囲気が完成されすぎている作品。だいぶすき。行動の理由を深く描写してないのが、却って効果的なパターン。たぶん本人にもよくわかっていないはずだから。

 

【バーベキュー日和】

一番すき。町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』の中の短編『溺れるスイミー』と似ている。好きな人たちと自分の価値観が大きくかけ離れてしまっていて、自分の価値観を嘆いてしまう話。みんな幸せになれる方法はないのですか・・・

 

【だれかのいとしいひと】

これもだいぶやばい。この感覚を言語化できる人間がいようとは。

 

【誕生日休暇】

これもすき。持続可能な停滞を選んでしまうのは楽だけれども、それは死を迎えるようなものなんですよね。田辺聖子さんの『ジョゼと虎と魚たち』のラストと似ている。不思議なご縁でカチリとはまる感じもすき。

 

【花畑】

不思議な作品。精神的ハッピーエンド代表作といってもよい。

 

【完璧なキス】

あ!この感覚も言語化できるんだ!という作品。あの、カフェで一人で時間を潰すときの思考。

 

【海と凧】

恋愛関係として、明るい方向に進んでいったの、この短編だけでは…?終盤一気に救い上げられました。

 

【あとがき】

ちいさく、みすぼらしいほどささやかな夢に限って、色とにおいと味と、リアルな肌触りがきちんと存在する感覚、めっちゃわかる。

 

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たぶん2021年最期の読了作品です。よい締め方ではなかったかと思います。

セラフィマと戦争を駆け抜ける

逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』を読みました。

 

本作は、あらゆる界隈から推されていて、いろんな所でこの作品名を目にしてきました。ここまで推されていると、逆に引いてしまうあまのじゃくな私ですが、直木賞候補にまで選ばれたということで、これ以上ハードルが上がる前に読まねばなるまい!と思って読みました。第11回アガサ・クリスティー賞大賞に選ばれており、史上初の全選考委員満点作品とのことです。

 

なにより、あらすじの時点ですでに面白そうなんですよね。襲われた村の生き残りである女の子が、狙撃兵として成長していく復讐譚…ぜったい面白いじゃんね…。結果、非常に面白かったです。面白かった、では片づけられない、濃厚な物語でしたけれども。

 

主人公・セラフィマと一緒に第二次世界大戦を駆け抜けていく物語です。セラフィマをはじめ、各登場人物の描写が丁寧で、一貫性があって、その分、心情の変化が象徴的で切ないのです…。

 

歴史としての対立、国としての勝敗はよく知られたものだけれども、こういった、個人に寄り添って描かれる戦争~戦後は、やっぱり胸に刺さるものがあります。歴史としての戦争ではなく、一個人としての戦争の意味に迫るような物語でした。

 

なぜ、戦うのか。なぜ敵を倒すのか、つまり、なぜ人を殺すのか。これらの意味・正当性を、個人の中でどう昇華させていくのか。そして、それを最期まで貫くことができるのか。これはおそらくにして兵士の数だけ分岐があったのだろうけれど、その一端を感じ取ることができました。

 

こういったメッセージ性の強い作品でありながらも、エンタメ性の完成度の高さもすごかった。戦闘シーンの緊迫感、迫力、展開のしかたがとてもよい。大ボリュームな作品にも関わらず、ハラハラしながらどんどん読み進めることができました。

 

では、以下ネタバレありで書いていきます。

 

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う~ん、まとめ方が難しいけれど、人物ごとにいきましょうか。

 

【セラフィマ】

一番変化が激しい人でしたが、すごく寄り添える存在というか、読んでいる時は私もセラフィマの一部として進んでいる感覚でした。

人を撃つなんてできるわけがないと思っていた少女が、復讐心を燃料として狙撃兵へと成り代わり、終盤には知略や様々な技術を身につけて危機を乗り切る…。スターリングラードでの戦いやケーニヒスベルクでの復讐劇は、エンタメ的には非常にハラハラしたけれど、あぁ…セラフィマはこんな境地まで登り詰めてしまったのか…というもの悲しさもある不思議な感覚でした。

 

でも最期には、自分が何のために戦っていたのか、それを貫かんとするセラフィマの軸がハッキリとみえて、個人的には安心しました。"復讐"を目的化せず、真なる目的にまっすぐに生きた結果です。イリーナの教えがここでも光っているね。

 

【イリーナ】

イリーナの独白も見てみたいなと思いつつ、それは野暮な話かな、とも思いつつ。

独り残された少女たちに"復讐"という目的を与え、生きる気力・意味を取り戻させる。そのうえで、訓練学校での厳しい訓練を経て、"復讐"を手段の一つにスライドさせ、真に生きる目的を思い出させ、そのために生きることを選ばせる。それが、卒業試験の最期に問いかけた「何のために戦うか」に現れている気がします。イリーナ、あなたは天才では??

 

もちろん思い通りにいっていないこともあるだろうし、兵力としての意味がないわけはなかったと思うんだけど、でもあの時代の中で、イリーナが「何のために戦うか」がここに詰まっているように感じました。

 

【シャルロッタ】

牛を撃つことでさえあんなに躊躇っていたシャルロッタが…という想いもありますが、戦中・戦後の様子をみるに、一番軸のぶれない人だったのだろう、と思います。自分の行動に関して、自分の中での意味づけがしっかりできている。

牛を撃つことについても、あの段階では意味づけができていなかったから躊躇って、でもセラフィマの意味づけを教えてもらうことで、シャルロッタの中でも腑に落ちた、ということだろうと思いました。戦中・戦後にかんしてもそう。敵を撃つことに関しても、しっかりと意味づけができていたから、戦後になっても"敵を撃ったこと"が、少なくともシャルロッタ自身の中では"人を殺したこと"と同義にはならなかった。

 

【ヤーナ】

ヤーナ自身から話は少し遠いが、本作の帯文はちょっと誤解を招くと思う(帯文が誤解を招くことは往々にしてあるので、読者もその心づもりを忘れてはならないが)。"衝撃的な結末"であることや、アガサ・クリスティー賞大賞と書かれると、ミステリー要素・どんでん返し要素があるのだろうかと邪推してしまったのです。

 

もちろんある側面では"衝撃的な結末"であるし、そもそもこれは書評の一部を切り取った表現であるから、ことさら意識的に書かれた表現ではないと(読後に)わかったし、アガサ・クリスティー賞も必ずしもミステリ色が強いわけではない、というのも(読後に)分かったので、誰が悪いかというと、まぁ、私なのかもしれないが…。

 

そんなわけで、私の悪い癖が発動し、隠された伏線がないかを気にしながら読んでいたという話なのですが、ここでヤーナに話が帰結します。ヤーナは序盤に"ママ"という渾名がつき、以降徐々に地の文でも"ママ"と呼ばれ始め、なんか怪しいぞ…ママがヤーナでない可能性が…と思ってしまっていました。でもママがヤーナでなかったとして、それは読者しか引っかからない類の叙述トリックであり、そこになんの意味も見いだせないので、そんなことはないとは思っていました。

 

はい、ヤーナ自身に話を戻しますと、彼女はシャルロッタと対照的で、"何のために戦うか"はハッキリしていたけれど、"何のために敵を撃つか"については曖昧なままだったように思います。"何のために戦うか"の裏に隠れてしまっていた。

だから、戦後の落ち込みが激しかったのかなと思います。でも、それもシャルロッタの影響でうまく中和されたのですから、シャルロッタとは本当にすてきな関係性だなと思います。

とはいえ、シャルロッタみたいな人の方が稀なはずです。多くの人が、戦中は"人を殺すこと"をうまく"敵を倒すこと"にすげ替えて精神を保っていたはずです。戦後になると、こんどは"敵を倒したこと"が"人を殺したこと"に変わり、各兵士の中に取り残される。これはある意味で、戦中よりも辛い、と思いました。桜庭一樹さんの『少女には向かない職業』で受けた衝撃をほんのりと思い出しました。

 

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ダメでした、濃厚な物語に対して、その感想を簡潔にまとめるだけの語彙力が足りませんでした。

 

帯文の後ろの沼野恭子さんの文章は、私とても好きで、まさしくまとめにふさわしいと思ったので、それを引用して締めたいと思います。

 

第二次世界大戦時、最前線の極限状態に抛りこまれたソ連の女性狙撃手セラフィマの怒り、逡巡、悲しみ、慟哭、愛が手に取るように描かれ、戦争のリアルを戦慄とともに感じさせる傑作である。読者は、仇をとることの意義を考えさせられ、喪失感と絶望に襲われながらも、セラフィマとともに血なまぐさい戦場を駆け抜けることになるにちがいない。

柴田勝家P

柴田勝家さんの『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』を読みました。

 

柴田勝家さんの『ニルヤの島』に出会わせてくれた友人からの、柴田勝家2作目としてのオススメ作です。

 

本作は表題作の短編1つと、限界ヲタクPの活動日記がついています。

 

気になった方はぜひ、以下の記事と、記事についている動画をみてください。トラウマものです。

 

ネタバレというほど核心には触れていませんが、以下感想を書きます。

 

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雲南省スー族におけるVR技術の使用例』

生まれた時からVRゴーグルをつけ、VR世界で一生を生きる一族の観察記録です。VRは最近のSFにとってはメジャーな要素なのだろうけど、ほとんどSFを読まない私にとっては非常に新鮮に読めました。

 

VR世界と現実世界の対比が良かったです。互いに互いの世界を認知はしつつも、体験したことはない。体験したことがない世界は果たして、存在しているといえるのだろうか?そんな哲学的な問いを投げかけてくるわけです。

 

我々の世界が一秒ごとに連続してつながっていると果たして言えるだろうか。

スー族の逸話を現実世界に落とし込み、これまた哲学的な問いを投げてくる。いいですね。

 

そして、最終的には現実世界そのものに話が拡張されていく感じがとても面白かったです。オンラインで講義をしている先生と生徒の問答など。

 

最終的には話の枠を超えて、本当の現実世界へこの哲学的な問いたちを持ち込んで考えてしまいました。私の人生とはあまりにも不連続な人生を歩む人々が日本にも日本以外にも沢山います。その一部は知識として認知しているけれど、体験していないそれはどこまでいっても他人事で現実感が感じられない。だから、いま私があらゆる場面において役に立つと思っている価値観も、その人生ではまったく歯が立たないのだろうな、と思いました。

 

総じて、認知と体験の間にそびえたつ壁、について印象が強く残りました。作者の顔は思い出さずに最後まで読めました。

 

『星の光の向こう側』

一瞬で、作者の顔と、例の動画を思い出してしまいました。ただの限界ヲタクルポでした。冒頭のパワーがすごい。

 

ここで語られるアイマスはほとんど知識がないのですが、とにかく作者の心が突き動かされていることはよくわかりました。

 

あの見た目、このペンネームで、一人称「ワシ」は完全に出来上がっているのよ…。

 

VR世界と現実世界が逆転している感じは前半の短編との共通点ですね…。前半と絡めて綺麗に締めようとするな。

 

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名前も見た目もなにもかも、作者の何もかもがインパクトが強く、なかなか忘れられません。他の作品も読みたいのですが、作者の顔が浮かんでしまうとまずいので、忘れたころにまた読みたいと思います。

日差しに浮かぶ星のような埃の粒

彩瀬まるさんの『新しい星』を読みました。

 

いやそれにしても彩瀬さん、筆が早い…。今年だけで3冊も刊行されるとは。雑誌での連載ものだから色々重なっただけかもしれないけれど。

 

本作は幻想要素はほとんどなく、現実と地続きになっているような作品です。テーマとしては、最近の作品と同種のものを感じました。「普通」について。「正しさ」について。

 

大学時代の同級生4人の交流を軸にした連作短編集ですが、正直にいえば、彼女らの物語というよりは、彩瀬さんの想いの物語のように感じました。裏に控える、彩瀬さんの考えが透けてしまっているような感じです。

 

なので、物語を通じて、現実への向き合い方に思いを巡らすという観点では、彩瀬さんが隣で一緒に考えてくれるようなイメージで、とても心地よい作品です。この点は『草原のサーカス』と近いかも。一方で、創作物語という観点では、現実にあまりにも近すぎて、人を選ぶ感じかなと思いました。

 

以下、ネタバレありです。

 

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まずは物語としての感想から。

 

一つは、大人になってから初めてわかる自分のことって、結構多いよねということです。本作は、社会に出て、色々な経験と出会いがあって、それぞれ苦悩を抱えた4人の物語です。大学時代の自分では思ってもみなかった壁に直面して自分自身驚いたり、友人からみても意外と思える状況に陥っている描写があります。大学の時点で約20年、自分と付き合ってきているというのに、社会に出て環境条件が変わると、自分の中にある新しい線、論理に気づくんですよね。

私自身も社会に出てからそう感じることが多かったです。でも自分の機嫌は自分で取りたいという想いが強いので、なるべく多種多様な刺激を自分に与えようと、頑張っては、います…。(ここ2年、本しか読んでないのによくそんなことが言えるな?)

 

あとは4人の適度な距離感、関係性が心地よかった。環境はバラバラだけど、悩むことには少なからず共通項があるし、さらっと本音が吐き出せるくらいの絶妙な距離感。よい。こういう縁は大切にしたいね。

 

続いて、物語を通した主張(?)について。

社会には意図的かどうかにかかわらず、自分に傷をつけてくる存在がいたるところに居る。それに対して、どう向き合っていくか。

 

正しいことを正しいと主張し、それを排除しようとする存在には屈しないこと、自分が正しくないことが分かったら、それを正すこと、こんな方向性で話が進んでいるように感じました。奈緒がお風呂に入るのをためらう描写や、ラストの玄也が奈緒に謝るシーンなど。このあたりの考え方は、彩瀬さんがコロナ禍のリレー短編キャンペーンみたいので書いていらした短編を想起させます。

 

私個人としては、ちょっと方向性が違っていて、排除しようとする存在は無尽蔵に湧いてくるので、この存在があること自体にストレスを感じてしまうと、至るところでストレスだらけになってしまうんですよね。だから、向き合うかどうかも含めて、本人の正しさ・幸福に従って行動するのが良いんじゃないかな。たとえ認識してしまったとしても、一般的な"正しさ"に従う必要はないし、自分の正しさはもっと流動的でいいんじゃないかな。世界のためを想う一歩手前に、あるいはその源泉に、自分のためを考えるステップを忘れずに差し込みたいね、という主張です。無論、大きな目指すところは本作の主張(と私が解釈しているもの)と同じなのですが。

 

う~ん、作品の主張も、私自身の主張も、うまく言語化できず、誤解を招きそうなのでこれ以上はやめておきます(誤解を招くほどこの文が読まれるはずはないけど)。

 

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いつも物語を通して、一緒に考えてくれる彩瀬さんがわたしは大好きです。これは誤解じゃありません。

『大切なのは文脈なのだ。』

マーガレット・アトウッド作、斎藤英治訳の『侍女の物語』を読みました。

 

これは、どこかで誰かにオススメしてもらって買ったはずなのですが、どこの誰だったのか全く思い出せない…。というのも、買ってから1年か2年くらい積んでいたので、買った時の記憶がまるでないのです…。

 

でも、誰かわからないけれど、オススメしてくれてありがとうございました。めちゃんこ面白かった。

 

ギレアデ共和国の侍女オブフレッド。彼女の役目はただひとつ、配属先の邸宅の主である司令官の子を産むことだ。しかし彼女は夫と幼い娘と暮らしていた時代、仕事や財産を持っていた昔を忘れることができない。監視と処刑の恐怖に怯えながら逃亡の道を探る彼女の生活に、ある日希望の光がさしこむが……。

あらすじの時点でだいぶキツいですよね。本作はゴリゴリのディストピア小説です。楽しい描写などなく、常に救いのない雰囲気が漂っている…。

そんな作品だというのに、何故か高いリアリティ、ものすごい没入感で、めちゃくちゃ読ませます。

 

作品全体の根底を流れる救いのなさ、主人公・オブフレッドの諦観と儚い希望の抱き方、現実と幻想が入り乱れる感じを、見事に高い描写力で描き切っています。どことなく宇佐見りん作品との共通点を感じます。

 

描写力については、訳書であるはずなのにこのえげつなさなので、作者であるマーガレット・アトウッドさんは当然のうえ、訳者の斎藤英治のパワーを感じます。本当にありがとうございます。

 

では、以下はネタバレありで書いていきます。

 

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魅力的だったポイントを列挙したのち、えげつない描写ポイントを列挙します。

 

■魅力①:リアリティの高さと没入感

なんででしょうね。こんなディストピア世界を体験したことなんて勿論ないのに、なんでこんなにリアリティを感じてしまうんでしょうね。

体験したことがないのは作者も同様のはずなのですが、経験した人にしかわからない何かが練りこまれている感じがあって、天才具合にちょっと恐怖です。

 

■魅力②:オブフレッドの語り

終盤で明かされますが、本作はオブフレッドが自身の体験を語っている内容をまとめたもの、という形式をとっています。基本は時系列で語りながらも、語っている出来事によってフラッシュバックする、更に昔の出来事(ルークとの日々)が結構差し込まれます。昔の出来事が語られて次第に明らかになっていく世界観のなかで、オブフレッドの諦観に寄り添えるような構成になっています。

 

また、実際にはなかった出来事や幻想描写もちょいちょい挟まれますが、オブフレッドの意思を感じられて好きでした。比較的わかりやすい差し込まれ方でしたし。あるいは竹宮ゆゆこ先生に鍛えられたおかげかもしれないけれど。

 

そして何より、どこがというのは難しいのですが、こんなに暗い話なのに心が重くなりすぎないような語り口なのが不思議な魅力です。

 

■魅力③:えげつない描写ポイント

個人的にえげつないと思った描写をただただ引用していきます。言葉選びが絶妙だったり、描写力の高さだったり。

 

自由には二種類あるのです、とリディア小母は言った。したいことをする自由と、されたくないことをされない自由です。

p54。あぁ~この社会はそういう社会か、とこの一文で開けた感じがしました。

 

わたしを怯えさせるのは選択なのだ。出口、救済の存在なのだ。

p118。先程の引用とも関連しますよね。されたくないことをされない自由下にあるなかで魅力的に映る一方で恐怖の対象となるのが、したいことをする自由への道、なんですよね。こうやってつながっていくの凄すぎる。

 

誰もセックスの欠如によって死にはしない。人は愛の欠如によって死ぬのだ。ここには、わたしが愛せる人がひとりもいない。

p190。だれもうれしくないディストピア…だとこの時点では思っていた。

 

これもまた脚色したものだ。

p260。こんな感じで事後的にこれは嘘です描写がある。②で述べたように、オブフレッドの意思が強めに感じられてすき。

 

あまりにも陳腐でとても真実とは思えない。

p287。解説不能だけど言葉選びが最高。

 

この意識の不在、つまり肉体から意識が離れて存在しているという状態は、司令官についても同じだった。

p291。めちゃくちゃわかる。肉体と意識の分離というのもそうだし、対話したことのある人とない人の明確な差。別のシーンで、人から"それ"に変わる描写があってそれも好きだけど、これは"それ"から人に変わる描写だよね。

 

でも、たとえそうだとしても、馬鹿げたことだけれど、わたしは以前よりも幸福だ。

p297。第一欲求が自分の幸福である人が私はすきです。将来に不安があっても、目の前の幸福に手が伸ばせないのはもったいないと思う派です。

 

愛がわたしを置き去りにして進んでいくように感じられた。

p334。こういうズレは埋められない。

 

大切なのは文脈なのだ。

p351。本当にそう。同じ出来事でも文脈によって幸福にも不幸にもなる。

 

他の人間が自分の不幸をそれほど願っていたことに気づく瞬間ほど嫌なものはない。

p353。現在のSNS社会の様相に通ずる。

 

あなたとこうやって話していても、現実感がまったく感じられません。

p358。ちょこちょこメタ的と解釈しうる描写がある。"あなた"は、読者を指している??

 

わたしたちはいつもそれが現実に顕現するのを待っていた。その言葉が肉体化するのを。

p412。わたしも肉体化するのを切望している節がある。

 

彼女の記憶から、わたしは消えさってしまったのだ。

p417。写真のくだりが出た辺りからこうなるんじゃないかと心配していたが、現実になってしまった…。彼女の情報がアップデートされてしまったことで、オブフレッドの中での過去を根拠とした幻想ができなくなるであろうこともつらい。

 

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独特な読書体験でした。どうやら続編??があるようなので、ぜひ読みたいと思います。

王道を往くどんでん返し

綾辻行人さんの『十角館の殺人』を読みました。

 

余りにも有名な作品ですね。新本格ミステリの幕開けとなった一冊に位置するようで、ミステリ好きの方からはことごとくオススメを頂く作品です。

 

私はこれまで、いわゆる館ものにはほとんど縁がありませんでした。理由は特になかったのですが、今回で少しわかったかもしれません。

 

それにしても、してやられました。"あの1文"を読んだときは、「ん??」と声を出してしまいました。刺されたことに一拍遅れて気づく感じです。どんでん返しミステリとしても王道の作品です。

 

以下、ネタバレありのコメントを。

 

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【島】

得体のしれない犯人に次々と殺されていく恐怖、積もりまくった謎に引き寄せられ一日で読んでしまいました。

 

【本土】

守須は完全にノーマークだった…。謎の待ち伏せ行動にもっと意味を感じておくべきだった。

 

それから、口許にふっと寂しげな微笑を浮かべたかと思うと、やや目を伏せ気味にして声を落とした。

ヴァン・ダインです」

ひっくり返るというよりは、あ!そういう向きでピースが繋がるのね!!という感じ。

 

そして、私に関してわかったのは、私解決編が好きなんだなぁ、ということです。探偵役と犯人が対峙して、論理と問答を通して事件が解決する、その瞬間を求めてしまっているんだと思います。

 

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館パワーがたまったら、綾辻さんの館シリーズを順番に読んでいきたいです。